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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百三十六 結人編 「平和記念公園でのこと」

仕事が終わって、自転車でまずはアパートに帰る。駐輪場に自転車を置いて、それから歩いて山仁やまひとさんのところに沙奈子を迎えに行く。


少し遅くなった時とかには直接迎えに行ったりもするけど、だいたいはそうしてる。だって、自転車を押してだと、沙奈子が僕と手を繋いで歩きたいって思ってくれた時に繋ぎにくいから。


もう六年生くらいになると親と手を繋いで歩くなんてあまりしないのかもしれないけど、沙奈子は今でも時々、自分から手を繋いできてくれる。


そういう時は、たぶん、学校で少しストレスがかかるようなことがあったり、何かの理由で不安になったりしてるんだろうな。


他の人は、子供がそんな風にストレスや不安を感じてる時、『それくらい我慢しろ』っていう場合が多いみたいだけど、僕はそれは違うと感じてる。そういう時こそ子供の気持ちを受け止めてあげるのが正解なんじゃないかって感じてる。


他でもない、僕自身が、子供の頃、親にそうして欲しかったっていう覚えがあるから。


確かに些細なことなんだけど、でも、その些細なことを蔑ろにするかどうかっていうのも、信頼できるかどうかに繋がる気がするんだ。


そして僕は、沙奈子のそういう気持ちを蔑ろにしたいとは思わない。


山仁さんの家で、


「ただいま」


「おかえりなさい」


のやり取りをした時には割といつも通りだった気がしたけど、僕たちの部屋に帰る途中、大きなリュックを背負った沙奈子が、何も言わずに僕の手を掴んできた。


だから思ったんだ。


『ああ、ちょっと疲れたんだな』


って。それでも、


「リュック持とうか?」


って聞くと、


「ううん。大丈夫」


と応える。自分でできることはしようとしてるんだって分かるから、それについては尊重したいと思ってる。何でもかんでも手助けするのも違うんだろうなって思うし。


で、聞いたんだ。


「平和記念公園でのこと、大丈夫だった?」


僕がそう聞いた瞬間、沙奈子の手が少しだけ強く僕の手を握った気がした。でも、


「大丈夫……」


って応える。


その口調そのものは、確かに大丈夫な時のだと思った。でも、大丈夫なんだけど、それでも精神的にちょっと疲れたのかなっていうのも感じたんだ。


だけど、無理に聞き出そうとは思わない。『なにがあった?』って問い詰めたりしない。そんなことをする必要はない。


アパートに帰って、絵里奈と玲那にもビデオ通話で、


「ただいま」


「おかえりなさい」


のやり取りをして、ホッとした様子を確かめて、それから今日はさすがに疲れてるだろうからと思って帰りにコンビニで買ったお弁当で晩ごはんにして、二人でゆっくりお風呂に入ったのだった。



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