八百三十四 結人編 「親に見捨てられたら」
十月十日。水曜日。今日はまた朝から曇ってた。と思ったら、昼頃から雨。しかも結構強い雨だった。ただ、幸いにも広島の辺りではそれほどじゃなかったみたいで、沙奈子たちの修学旅行のスケジュールには影響なかったらしい。
よかった。
昨日の件について、少し気になってはいたけど、沙奈子たちの様子を見る限りじゃそんなに心配する必要もないかなって感じた。
結人くんが中学生と揉めたのも、向こうが因縁をつけてきたかららしいし。
確かに、結人くんがいつもの調子で生意気な感じで睨み付けたりしたのも原因なのかもしれなくても、それで『メンチ切った』とか言って絡んでくるのはおかしいと思う。それはやっていいことじゃないと思うんだ。睨まれただけなら、スルーすれば済む話じゃないかな。ましてや相手は自分よりも小さい子供なんだし。それにムキになるというのがまず恥ずかしいことだと僕は思ってる。
そういうことにムキになる人が、『生意気なガキは厳しく躾けなきゃいけない』とか言って、自分より確実に弱い子供を虐待したりするんじゃないかな。
ただ、今回のことは相手も中学生で、『子供』なんだ。子供がそうやって他人に対して攻撃的になるのはなぜなんだろう?。
そんなことをしてトラブルになれば、自分の家族にだって迷惑を掛けたりするかもしれないのに。
僕はいつもそれが不思議なんだ。玲那の『事件』を経験したことで余計にそう思うようになった。あれがあったから、僕たちは離れ離れで暮らさなきゃいけなくなったんだ。
沙奈子のこと、千早ちゃんのこと、結人くんのこと、それと、イチコさんや大希くんを比べて、感じたことがある。
『イチコさんや大希くんは、他人に対して攻撃的になる必要がないんだ』
って。
子供って本来、親に嫌われるようなことは、親に見捨てられるかもしれないようなことは本能的に避けようとするんじゃないかな。だって、親に見捨てられたら生きてはいけないから。
だから何も余計なことをしなければ、子供は親をひどく困らせたりしないんじゃないかなって、イチコさんや大希くんと、千早ちゃんや結人くんを見比べて思ったんだ。
イチコさんや大希くんは、自分から他人を攻撃もしないし、そんなことになりそうな真似もしない。でも、沙奈子と友達になる以前の千早ちゃんや今の結人くんは、明らかに攻撃的な様子を見せてた。
それは、『攻撃的にならずにいられない理由』がそこにあるからなんじゃないかな。
千早ちゃんは、お母さんやお姉さんたちから暴力を受けてた。結人くんは、今でこそ鷲崎さんと一緒に暮らしてそんなこともなくなったと言っても、実の母親に首を絞められて殺されそうにまでなった。
千早ちゃんや結人くんの例は少し極端かもしれなくても、『子供が攻撃的にならなきゃいけない理由』っていうのは、良く調べればそれぞれあるんじゃないのかな。




