八百三十三 結人編 「本当にいい友達に」
三時過ぎ。僕のスマホに着信があった。公衆電話からだった。
『…?、公衆電話って…、誰だろう?』
と思ったけど、このタイミングで公衆電話からってなったら、思い当たるのは一つしかなかった。
『沙奈子…?』
ちょうど休憩に入るタイミングだったから、席をはずして電話に出ると聞こえてきたのは、
「あ、沙奈のお父さんですか?。石生蔵です」
っていう、千早ちゃんの声だった。
『まさか、沙奈子に何か……!?』
と僕が不安になるより早く、千早ちゃんが単刀直入に、
「さっき、平和記念公園で中学生の不良グループに絡まれたんですけど、みんな大丈夫だったんで、それだけ連絡しときます」
だって。それがあんまり端的だったものだから、咄嗟には、
「あ…、え?」
なんて声しか出なかった。次いで、
「絡まれたって…、大丈夫なの?」
とか、千早ちゃんが『大丈夫だった』って言ってくれてるのに焦ってそう聞いてしまった。
だけど千早ちゃんは落ち着いてて。
「はい。大丈夫です。転んだ時に沙奈と鯨井がちょっと擦りむいたくらいだったし、先生がすぐに来てくれたから」
「転んだ…!?」
「そうです。詳しいことは帰ってからまた話しますけど、ホントに丈夫ですから。ね、沙奈」
千早ちゃんが受話器を動かす気配がしたかと思うと、
「うん…。もう痛くないから…。大丈夫だよ、お父さん」
って、沙奈子の声も聞こえてくる。その時の声のトーンが本当に大丈夫な時のそれだったのを感じて、僕もすっと落ち着けた気がする。できれば表情とかも確認したかったけど、公衆電話じゃそれは無理か。
「本当に大丈夫ならいいんだけど、絡まれたって、どうして…?」
その問い掛けには、千早ちゃんが答えてくれる。
「いや~、それが、ヤンチャ中学生のグループが鯨井の目付きが悪いのを、『なにメンチ切ってんだ!?』とか因縁つけてきて、それで鯨井がキレちゃってゴタついちゃって。私とヒロも助けようとしたんだけどさすがに中学生が相手じゃ~。
でもでも、すぐに先生が来てくれて止めてくれたんですよ!。だから大丈夫でした」
千早ちゃんの言い方は、僕に心配させないように気を遣ってくれてるのが分かるものだった。受話器の向こうでは、「ホントに大丈夫でしたよ」って大希くんの声も聞こえてくる。
「そっか…、それはよかった」
こうやって沙奈子のためにわざわざ連絡までしてくれる。
大希くんはもちろんだけど、千早ちゃんも本当にいい友達になってくれてるんだなって感じられたんだ。




