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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百三十二 結人編 「一緒に歩きたくない」

十月九日。火曜日。今日もいい天気だ。


今日から沙奈子達は修学旅行だから、天候に恵まれたのは良かった。


いつもより早めに家を出ることになるから、僕も一緒に家を出て、山仁やまひとさんの家まで、自転車を押しながら送っていく。


その僕と沙奈子の後ろを、結人ゆうとくんが何十メートルか離れて歩いてる。鷲崎わしざきさんに、


「沙奈子ちゃんと一緒に行ったら?」


と言われたことに対する、彼なりの最大限の譲歩だったんだろうな。


並んでは歩かないけど、取り敢えずはお互いの姿が見える距離で歩くっていうのが。


そのことについても、僕は敢えて『もっと近くを歩いたら?』みたいなことは言わないようにしてる。迂闊にそんなことを言えば、今の彼の性格からすればかえって反発するのは目に見えてると思うんだ。


こう言うと、


『大人が子供にそこまで遠慮する必要とかあるか!』


みたいに思う人も必ずいるんだろうけど、それは結人くんのことをよく知らない、彼のことを理解したいと思わない、自分の感情だけが大事な人の言うことだろうから、言うのは勝手だし好きにしててくれて構わないにしても、言葉には耳を傾けたとしても、聞き入れることは僕はしない。


『言葉に耳を傾ける』


ことと、


『相手の言うことを聞き入れる』


のは、別のことだからね。それを混同してる人も多いみたいでも、僕は、はっきりそれは違うと思う。違うという実感しかない。相手の言葉に耳を傾けた上で、だけどそれをそのまま聞き入れることはできないっていうのは、よくあることがと思うんだ。


裁判とかが、分かりやすい例じゃないかな。裁判官は原告・被告双方の主張に耳を傾けながらも、聞き入れられるところと聞き入れられないところとをきっちりと区別するというのがその役目のはずだから。


『一緒に歩きたくない』


という結人くんの主張については、別に聞き入れてもそんなに問題になるとは思わない。ましてやこうしてお互いの姿が見える位置を歩くという形で彼が最大限譲歩してくれてるんだから、それに対して正当な評価をしてあげたいんだ。


『それ以上、口煩く言わない』


っていう形でね。


たとえ相手が子供であっても、『何でもかんでも大人の言いなりになるべきだ』って考えるのは、大人の側の甘えだと僕は思うんだ。そして大人がそういう甘えた姿勢を子供の前で見せることで、子供も『なんでも自分の言いなりになるべきだ』っていう甘えた姿勢を真似するようになってしまうんだろうな。


お互いに譲歩できるところは譲歩して妥協点を探るという習慣を身に着ける機会を奪うことになるんじゃないかなって気がするんだ。



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