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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百二十 結人編 「自分に牙を剥くんだってことを」

九月二十七日。木曜日。今日も朝から雨。本当に梅雨なんかよりよっぽど梅雨っぽいな。いったい、いつまで続くんだろう。




山仁やまひとさんは、決して『立派な人』じゃないと僕も思う。今でこそ星谷ひかりたにさんが中心になって片付けてくれてるからマシになったけど、山仁さん自身は片付けが苦手で、ほとんどゴミ屋敷的に家の中が雑然としていたらしい。そして山仁さん自身がそんな自分のダメな部分を自覚してるから、偉そうにしないんだ。


出逢った頃、『父子家庭の先輩』として僕にあれこれ口出ししてこなかったのも、『ああしろこうしろ』言わなかったのも、自分がそんな言い方をすれば逆に反発を受けることが分かってたからなんだって。


その気持ち、すごく分かる気がする。


だけど、『自分を見倣え』とは言われなくても、僕にとっては参考になる部分がすごく多いのも事実だった。今の僕の考え方の大半が、山仁さんから学んだことなんだ。それも、言葉ではなくその振る舞いで。


だからといって僕は山仁さんじゃないから、違う部分ももちろんある。僕は沙奈子と一緒になって家のことをするとか、部屋が雑然としてると落ち着かないとか、そういう部分は大きく違うんじゃないかな。


でも、それで『僕の方が偉い』と言うつもりもないけど。


『自分の方が偉い、立派だ、優れてる』


ってことにこだわる人は、いったい、どうしてそういうことにこだわらずにいられないんだろう?。そう思ってないと不安なんだろうか?。


僕は、そういう部分についてはあまり気にしたことがない。むしろ人より劣ってると感じてるし、でもそれで卑屈になろうとまでは思わない。


『他人は他人。僕は僕』


と思うだけだ。そんな風に思えるのは、いつも自分と他人を比べて負けてる部分があるとイライラして当たり散らす僕の両親や兄の姿を反面教師として、『こうはなりたくないな』と感じたからかもしれない。両親や兄を反面教師と捉えることができたのは、運が良かった。


それは決して、僕が両親や兄と比べて優れてるという意味じゃない。本当にちょっとした違いでしかない。『たまたま』なんだ。そんな僕が偉そうにするなんて、意味が分からない。他人を攻撃するなんて、有り得ない。


ましてや『正義』を掲げて他人を攻撃するなんて。


山仁さんや玲那を攻撃した人たちのほとんどは、今でもきっと自分のしたことは正しいと思ってるんだろうな。そうして今でも何か事件が起こる度に正義の名の下に誰かを攻撃してるんだ。それがいつか、自分の身に返ってくるかもしれないとは考えもせずに。


もし、自分の家族が何か事件を起こせば、自分がやったのとまったく同じことが自分の身に降りかかると、想像もしてないんだろうな。


自分が信じてた『正義』が、自分に牙を剥くんだってことを。



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