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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百十八 結人編 「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」

九月二十五日。火曜日。今日もやっぱり朝から雨。




『子供は望んでその親のところに生まれてきた』


僕はそういう言葉に対して、『反吐が出る!』とずっと思ってきた。だって僕自身、自分の両親のところになんて生まれてきたくなかったから。聞き分けの良い大人しい子供のフリをしながら、ずっと、


『こんな親の元に生まれてきたいと思うバカがいるか……!』


みたいなことを考えてきた気がする。


正直にその気持ちを表そうとすれば、


『育ててもらった恩を忘れるロクデナシ!』


みたいに言われることを、心の奥底ではずっと憎悪してきた。


『ロクデナシはお前らの方だ!』


と思ってきた。自分のいい加減さを正当化するために、『子供は望んでその親の下に生まれてきた』なんて、ただのオカルト以外の何ものでもない話をでっち上げる大人の汚さこそを、


『呪われろ!!』


と、はっきりとした思考ではなかったかも知れなくても思ってた記憶がある。


自分たちがどんないい加減なことをしても、子供がそれを恨んだり批判的な態度を取れば、


『自分が望んで生まれてきたクセに、親のせいにするのか!?』


なんて言いたいがために、証明しようもないホラ話を、さも感動的な良い話のようにすり替えるその卑劣さを、心底軽蔑してたんだ。


こんな風に言うと、それこそ極悪人のように罵る人もいると思う。


だけどそんなの、痛いところを突かれたからムキになってるだけとしか思えない。話をすり替えようとしてるとしか思えない。そんなホラ話、証明なんてできないのに。


『子供が望んでその親の下に生まれてきた』なんて。


僕自身が三十歳を迎えて、まぎれもなく『大人』って呼ばれる年齢になって、沙奈子を、千早ちはやちゃんを、大希ひろきくんを、結人ゆうとくんを見て、言葉を交わして、その姿を見て、心に触れて、実感した。


『甘えてるのは、大人の方だ』って。


生意気な子供に腹を立てるのは、甘えてる自分を見透かされてる気がするからだって。


よく、


『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』


なんて、『厳しくも深い親の愛情』なるものを表す言葉として用いられるようだけど、僕はそれを、親の愛情を示す表現としてであれば『致命的な欠陥』があると思ってる。


というのも、


『そうした結果、子供がどうなれば正解なのか』


がまったく示されてないから。


なるほど<獅子>であれば、四の五の言わなくても強く生き延びることが正解なのかもしれない。だけど人間の場合は、ただ生き延びればいいっていうわけじゃない。『どう生きるか』が大事なんじゃないかな。



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