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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百十一 結人編 「やっぱり正義なんて」

九月十八日。火曜日。今日は昼から晴れ間も覗いた。でもまだやっぱり曇ったり晴れたりだったけど。




山仁やまひとさんは言っていた。


「人は…、正義など全く信じていなくても悪を成さずに生きていくことはできます。私は、正義など信じていない。正義を口にする者達がどれほど残酷で悪辣かを、身をもって学んできました……」


山仁さんは、『七人殺しの役童』と呼ばれた連続殺人犯の実の息子として、とても苦しい人生を送ってきた。正義を自称する人たちによってどれほど苦しめられてきたのか、僕には想像することもできない。玲那の身に降りかかったことを基にしても、多分足りない。


でも、それでも、『正義』を信じられなくなったという気持ちについては、少しくらいは想像できる気もする。玲那の件のことを思い出せば、僕も『正義の恐ろしさ』が実感として伝わってくる。


だけどそんな僕たちは、どんなに正義を憎んでても、冷めた目で見てても、だからといって『悪』として生きたいとは思わない。そんなことをすれば自分の大切な人がどれほど苦しむことになるかを、骨身に染みて学んできたから。


たぶん、結人ゆうとくんも僕たちと似た部分があると思う。正義を信じられない、ううん、それどころか憎んでさえいるっていうところ、かな。


けれど、そんな僕たちでも誰かを傷付けたり苦しめたりはしたいとは思わない。正義とか善とか、そういう概念に頼らなくても他人を傷付けたり苦しめたりしなくても済む生き方があるのを、自分で実践してきたんだ。


結人ゆうとくんには、それを学んでもらえばいいと思ってる。


今さら彼に正義や道徳を信じるなんてことをさせるのはたぶん無理だっていう実感しかない。


そんな実感しかなくても、正義にも善にも依らなくても人の世界と折り合って生きていくことはできるんだ。


そういうの、正義を妄信する人にはまったく理解できない生き方だと思う。きっと鼻で笑うだろうし、軽蔑だってされるかもしれない。『何言ってんだ?』て馬鹿にする人だっているだろう。でもそんなことを言いたい人には言わせておけばいい。正義を自称しながら他人を傷付ける人、蔑む人には理解されなくていい。だって、『正義なんて信用できない。正義が必ず人を助けるなんて嘘だ』と、そういう人たち自身が証明してくれてるから。


自分達の言葉が嘘じゃない。正義が常に必ず人を助けるのなら、言葉じゃなくて行動で示してほしい。


それとも、正義は、それを掲げる人にとって都合のいい相手だけを助けるの?。


だとしたら、やっぱり正義なんて信じられないよ。



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