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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百十 結人編 「利口な子」

九月十七日。月曜日。今日は敬老の日で会社は休みだ。特に予定もないので、一日、沙奈子と一緒に寛ぐことにする。天気はもう相変わらずだからもういいかな。気温だけはまた少し下がったみたいだけど。




結人ゆうとくんみたいに生意気で可愛げのない子供の自尊心とかを気遣うのって『甘やかしてる』と考える人もいるかもしれない。だけど僕たちは、自分自身の経験とも照らし合わせて考えてみるんだ。


『子供だからって自尊心を蔑ろにするような大人を敬えたか?』


って。


無理だ。自分をあからさまに見下してるような相手を敬うなんて、到底できなかった。そんな相手に何を言われたってただ反発しただけで、説教されたところで反省なんかしたこともない。


自分がそうだったのに、子供に対して頭ごなしに叱りつけて反省を求めるなんて、それこそムシが良すぎると思う。


だから考えるんだ。あの時、自分なら、どう言ってもらえれば、どう接してもらえれば、反省とまではいかなくても『何となく申し訳ない気分』になれたか。『後ろめたいな』って思えたか。


そうだ。言葉じゃなくて、態度じゃなくて、『相手によった』んだ。自分がそれなりに信用してもいいかな、反発しようって気になれないな、っていう相手に迷惑を掛けてしまったと感じたら、すごく申し訳ない気分になったんだ。


だから、自分が、その子にとってのそういう相手になるのが一番確実なんだって。


結人くんにとってのそういう相手になるにはまだまだ時間がかかると思う。だけど、僕が彼に信頼されるのはずっと先のことかもしれないけど、少なくとも鷲崎わしざきさんは結人くんにとって一番信頼できる大人のはずなんだ。彼の、彼女への態度を見てれば分かる。自分から積極的に『おデブ』とか悪態を吐いてるのは、鷲崎さんに対してだけだって。


彼が他の人に対して悪態を吐くのは、まず相手の方から何かアプローチがあってからなんだ。そういうのがなくて、いきなり『おデブ』とか声を掛けるのは、鷲崎さん対してだけなんだ。


それは彼が、彼女のことをそれだけ信じられてるからだと思う。そういうことを言っても『デブじゃない!。私はぽっちゃり!』と言い返されることはあっても、本気のケンカになることはないって、揉め事になることはないって思うからこそそんな風に言えるんだって思うんだ。


勉強してるところを見てても分かる。彼は、勉強は好きじゃなかったかもしれないけど、本当はすごく頭のいい、利口な子だって。そんな彼なら、ちゃんと損得勘定くらいできるって。


『この人を敵に回すのは損だな』


って察することができるって。



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