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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百七 結人編 「すごく危うい状態にあるのを」

九月十四日。金曜日。引き続き雨が降ったりやんだり。特に暑かった頃のあの天気の良さが嘘のようだ。




さておき、沙奈子に甘える鷲崎わしざきさんを馬鹿にするみたいな態度を取ってた結人ゆうとくんについて、僕は敢えてそれを咎めることはしないでおこうと思う。だって、今はまだ、彼自身に鷲崎さんを受け止められるだけの余裕がないだろうからね。


それに彼は今、周囲の大人が自分にとってどういう存在かを確かめようとしてるだろうなって気がするんだ。


僕にも覚えがあるから。


しかも僕の場合は、沙奈子と一緒に暮らし始めてからだった。沙奈子の学校の担任の先生や山仁やまひとさんのことをそういう目で見てたんだ。自分にとって敵か味方か、益になるか害になるか、信用できるかどうか、そういうのを見極めようとしてた。その中で、失礼な態度もとってたんじゃないかな。三十前の『大人』って呼ばれる年齢なのにさ。そんな僕が結人くんに対して偉そうに説教するなんて、完全に『子供の頃の僕が馬鹿にしてた大人』だよ。


今はとにかく、彼の様子を注意深く見守る時期だと思ってる。僕たちの言動に彼がどういう反応を示すのかを見極める必要があるんだ。それを知らずに迂闊にあれこれ口出ししたら、きっと、取り返しのつかない失敗をすることになるっていう予感がある。


それに加えて、今はまず、鷲崎さんが沙奈子に癒されることで心の余裕をしっかりと持てるようになるのが先かなとも思うし。


彼女はずっと、結人くんと一人で向き合ってきたんだ。誰にも助けを求めずに。いくら彼女がおおらかな気性だからってそれは決して楽なことじゃなかったはずだ。


小学生の女の子に抱き締められて泣き崩れてしまうくらいには、疲弊してたんだろうな。


僕もそうだったから、想像はつく。僕と再会する前の彼女には、結人くんのお母さんになれるだけの心の余裕がなかったんだろうなって。絵里奈や玲那や山仁やまひとさん達と出逢うまでの僕も、今から思えば正直、ギリギリの状態だった。自分がすごく危うい状態にあるのを、『大丈夫だから』と自分自身に言い聞かせることで持ちこたえているような感じだった。それを鷲崎さんは、六年近く続けてきたんだ。


きっと僕なら、とっくに破綻してた気がする。一緒に暮らしてるのが沙奈子なら危うい状態でも何とかなってたとしても、結人くんが相手だととても無理だ。お互いに限界を超えて、何か事件になってたんじゃないかって。


結人くんには、鷲崎さんが必要なんだ。その鷲崎さんがしっかりと結人くんを受け止められるようになることが大事なんじゃないかな。



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