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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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八百五 結人編 「逃げようとはしてない」

九月十二日。水曜日。今日も朝から雲が厚くて空が低い。雨までは降ってないけど。




館雀かんざくさんのことを考えると、僕は、腹が立つというよりも悲しい気持ちになってしまう。どうしてあんな風になってしまったんだろうって。


もし、僕が彼女の親だったら、あんな風になるまでそのままにしてたかなって。


沙奈子が彼女みたいに他人に食って掛かってたら、僕はそのままにしておけるかなって。


たぶん無理だ。そのままになんてしておけない。


彼女だって、赤ちゃんの頃からあんな感じだったわけじゃないと思う。成長していく中でだんだんあの感じになっていったんじゃないかな。それをそのままになんて、僕はしておけないと思う。昔の僕ならそのままにしてたかもしれないけど、今の僕にはたぶん無理だ。


館雀さんは他人だから、僕の娘じゃないから、構ったりできない。だけどもし沙奈子が彼女みたいになりかけてたら……?。


ううん。そもそも他人に対してあんな風に言わずにいられないような状態にしておくことがきっとできない。


あれは決して、単なる『性格の問題』じゃないと思う。性格だけの問題だったら、千早ちはやちゃんは今の千早ちゃんにはなってないはずなんだ。


彼女は、お母さんやお姉さんたちからの暴力や暴言が原因でいつもイライラしてた。その八つ当たりとして、他人に、沙奈子に対してもきつく当たった。大希ひろきくんのことが好きだと思ったのも、大希くんが自分を癒してくれそうな気がしたからってことらしいし。


それを大きく変えたのは、星谷ひかりたにさんの存在だ。星谷さんと出逢ったから、自分の本当の望み、


『優しいお母さんやお姉さんが欲しい』


に気付くことができて、星谷さんをお母さんやお姉さんに見立てることができて、星谷さんがそれを受け入れてくれて、彼女は他人を攻撃しなくても済むようになった。


それと同じことが館雀さんにも起こってたかもしれない可能性はあったと思うんだ。


でも同時に、千早ちゃんのことは受け止められた星谷さんも、館雀さんのことは受け止められなかった。と言うより、館雀さんが逃げ出したんだ。イチコさんや星谷さんから。


そう言えば、まず、星谷さん自身が、かつては館雀さんと似たような感じだったって。


そんな星谷さんを変えることができたイチコさんだって、館雀さんは変えることができなかった。


星谷さんが変わることができたのは、彼女自身がイチコさんから何かを学び取ろうとしたかららしいな。


館雀さんには、そういうのがなかった。彼女をそこまでにしてしまったのは、一体、何だったんだろう。


結人ゆうとくんには、そうなってほしくない。彼と僕とは他人だけど、彼と鷲崎わしざきさんは家族で、僕は、鷲崎さんの辛い顔を見たくはないから。


そして何より、結人くん自身が、僕達の前から逃げようとはしてないからね。



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