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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百九十六 結人編 「自分がなりたくない大人に」

九月三日。月曜日。昨日に比べるとまた暑くなったのかな。でも電動アシスト自転車で会社に向かう分にはまだそれほど辛くもなかった。


ところで、今回の台風は、進路がヤバそうだという話を、会社の人達がしてた。だけど、正直、この時はあまり心配してなかったんだ。


『僕たちが住んでる辺りは災害に強いから』


って思ってたから。




九月四日。火曜日。台風接近に伴って暴風警報が発令されて、沙奈子は学校が休みになってしまった。朝の時点ではまだ全然風も強くなかったけど、昼頃には上陸する可能性があるということで、油断はできない。


沙奈子には山仁やまひとさんの家に行ってもらうことにして、僕は、電動アシスト自転車を押しながら山仁さんの家まで送った。


「じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい!。気を付けてね」


既に千早ちはやちゃんも来てて、大希ひろきくんと沙奈子と一緒に三人で見送ってくれた。山仁さんは仕事が山場を迎えてるらしくて手が離せないらしい。普段から締め切りは余裕をもって守るそうだけど、ノッてきてる時には中断したくないというのはあるんだって。その辺りの事情は僕も承知してるから、手を煩わせたくはないと思った。


山仁さんの家の前から電動アシスト自転車に乗って会社へと向かう。


雨はまだ大丈夫そうだったし、帰りにバスがもし止まってたりした時のためにと敢えて自転車にしたんだ。帰りの時に雨や風があまりに強いようなら収まるまで待ってから帰ることにして、そのことはもう沙奈子にも伝えてるし、大希くんにも山仁さんに伝言を頼んでた。


「少し、風が出てきたかな……」


雲の切れ間から時々太陽も見えるけど、さすがに『これから天気が悪くなるぞ』っていう予感を抱かせるには十分な不穏な気配を感じさせる空模様の中、僕は電動アシスト自転車を走らせた。


急ぎたい気持ちを抑え、きちんと交通ルールは守るようにする。以前からずっと心掛けていることだ。保護者である僕がルールを無視してたら、沙奈子に対して、


『ルールは守らなきゃいけないよ』


とは言えないと思うからね。


『大人はいいんだよ。そんな四角四面にルールを守らなくても』


子供の前で平気でそんなことを言う大人を、子供の頃の僕は心底馬鹿にしてきた。


『自分がルール守らないクセに、何言ってんだ……!』


って、口には出さないけど思ってた。そうやって自分が馬鹿にしてた大人に、『こんな大人は信用できない、尊敬できない』と思ってた大人になっちゃいけないと本当に思う。


『だって仕方ないだろ』


と言い訳をするのは甘えだよ。大人が甘えてるのに子供には『甘えるな』なんて、どの口が言うんだろう。って思ってた。


『自分がなりたくない大人に、大人になったら自分がなっていた』


なんていうのをよく耳にするけど、そうやって自分が『なりたくなかった大人にならないようにする努力』を怠っていたんじゃ、子供に対して『努力しろ』なんて言えないよ。



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