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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百九十二 結人編 「家族の誰も幸せには」

八月三十日。木曜日。


世の中っていうのは、何でも自分の思うとおりに行くわけじゃない。と言うかむしろ、何もかもが自分の思い通りになったらきっとその裏で苦しい思いをする人が出たりすると思うんだ。すべての人が同時に完全に幸せになれる世界なんて、たぶん、存在しないんだろうな。


前の会社だって、僕にとっては何もかも都合が良かった訳じゃないけど、たぶん、そのおかげで救われた人もいたんじゃないかな。


それに、上司からはパワハラもあったとしても、同僚からは仕事以外のことで構われたりしないのは僕にとってはむしろ幸いだった。上司に絡まれる僕を庇ってもくれなかった代わりに、上司と一緒になって僕を責めたりもしなかった。


彼らにだって生活はある訳だから、僕を庇ったりして同じように退職に追い込まれたりしたら困るだろう。


僕は決して、誰かを巻き添えにしたいわけじゃない。僕を庇って退職したなんてなったらその人の人生まで背負いきれない。


絵里奈はいいんだ。彼女は僕と一緒に生きるって決めてくれたから、彼女も僕を支えてくれてる。お互いに支え合ってるから。だけど、そんなに深く関わるわけでもない人の人生までは無理だよ。


だから変に構われないでよかったんだ。


ただ、今度の職場は、どうやら前の会社みたいなパワハラはない代わりに、同僚たちのお節介はありそうだなという点でやっぱり僕にとっては必ずしも都合がいい訳じゃないと思う。


でも、それでいいんだろうな。


何もかも自分にとって都合のいい状態を期待するのは、決して解消されることのない不満を抱くのと同じことじゃないかなって気がする。何もかもが自分に都合のいい状況なんて有り得ないから。そんな有り得ないことを期待して、有り得ないから決して叶うことがなくて、叶わないことに不満を抱いてしまって。でも叶うはずがないからずっと不満を抱き続けることになって。


それでイライラして他人に八つ当たりするとか、誰も幸せになれない気がする。


ましてや自分の家族に八つ当たりするなんて、わざわざ不幸を作ろうとしてるとしか思えない。


もし僕がそれで沙奈子に八つ当たりしたなんてことになったら?。


その時は、僕は自分が許せなくなる気がする。


僕の両親や兄がやってたのと同じことをするわけだから。


あの人たちは本当に自分の思い通りになるのが当然だと思ってて、それが<権利>だと思ってて、でも実際にはそうならないからいつも不平不満ばかりで、結局、家族の誰も幸せにはなれなかった。


それじゃ何のために生まれてきたのかって疑問を抱いても当然かもしれない。



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