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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十九 結人編 「偉そうに説教は」

八月二十七日。月曜日。


今日から沙奈子は学校だ。そして僕は、新しい会社に通う。


「じゃあ、いってきます」


「いってらっしゃい」


沙奈子と絵里奈と玲那に見送られ、僕は部屋を出た。もちろん、その時には沙奈子に『いってらっしゃいのキス』もしてもらう。


「じゃあ、行きましょうか」


部屋の前では、鷲崎わしざきさんが待ってくれてた。一緒に通勤する為だ。


これまでは乗るバスの路線が違っててバス停が別だったから『一緒に』とはいかなかったけど、今日からは彼女も会社に行く時には一緒に行くことだってできる。


もっとも、鷲崎さんは普段は在宅勤務が多くて、しかも今では、なるべく結人ゆうとくんの傍にいてあげたいということで、こういうのはたまにあるだけになるだろうな。


そう。今、鷲崎さんにとって最優先なのは、結人くん。僕のことは二の次になってる。だからといって僕への好意が薄れたわけじゃないみたいでも、結人くんのことがそれ以上になったんだ。


そんな鷲崎さんの変化に結人くんも戸惑ってるのが分かる。以前ほどは『おデブ!』と言わなくなった気がする。と言うか、明らかにその回数が減ってる。鷲崎さんが、あまり、『デブじゃない!』と言い返さなくなってるのもあるのかもしれない。言い返す代わりに、にっこりと微笑み返すんだ。『可愛い♡』って感じで。それに困惑してるのが分かる。


以前のようにノッてきてくれないから、逆に言いにくいんじゃないかな。


だから結人くんが『おデブ!』と罵ってたのは、やっぱり甘えてたんだと思う。それが彼なりの甘え方だったんじゃないかって気がするんだ。なのに、鷲崎さんの反応が変わったことでどうしていいのか分からなくなってしまった。


ここで素直に、彼女に抱きつくみたいな『普通の甘え方』になれればもっと距離が近付くんだろうけど、さすがに十二歳の男の子にそれはハードルが高いかな。きっと羨ましがる人は多いと思うんだけどな。これまで散々反発してきた彼には特に難しいか。


それでも、大きく前進した気はする。


ここからさらに先に進むにも、時間はかかるんだろうな。だけど焦らない。実の母親に殺されそうになった彼の『心の傷』は、そう易々と癒されるものじゃないと思う。急いで結果を出そうとすればきっとまた不信感を与えてしまう。


僕たちはただ、彼の変化を注意深く見守りながらただ待てばいい。僕たち自身が成長しながらね。


本当は、館雀かんざくさんや、波多野さんの家族や、田上たのうえさんの家族についても同じようにできたら素晴らしんだろうな。


でも僕たちは『聖人』じゃない。それができる相手とできない相手がいるんだ。


それじゃ結人くんに対して偉そうに説教はできないよ。


で、せっかく電動アシスト自転車を買ったけど、今日のところはまだ出番なしとなったんだ。



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