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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十七 結人編 「お父さんだからできる」

八月二十五日。土曜日。台風は結局、今回もこの辺りには特に大きな被害も出さずに過ぎた。それは本当に幸運だったと思う。


そのおかげで、今日も、絵里奈と玲那に会いに行ける。


鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんと一緒に昼食を済ませて、それから出掛ける。


新しい会社は、繁忙期には休日も仕事をしなくちゃいけないこともあるらしいから、もしかすると毎週こうやって必ず会えるというわけにはいかなかったりするかもしれない。だから今日のは特に大事だと思う。


「毎週会えないかもと思うとちょっと寂しくなるな」


いつもの人形ギャラリーの喫茶スペースでコーヒーを飲みながら、僕は玲那と話をしてた。


だけど玲那が言う。


「寂しいのは確かだけど、私はお父さんがあの会社を辞められた方が良かったと思ってる。それで言えばたまに会えなくなるくらいならどうってことないよ。ビデオ通話で毎日顔を見ながら話もできてるしさ。


絵里奈もそう言ってるよ」


「ありがとう。二人がそう言ってくれると僕も気持ちが休まる」


「ううん。支えてもらってるのは私たちの方だよ。『大黒柱』って言葉、今じゃあんまり使わなくなったかもだけど、お父さんを見てると『大黒柱って本当はこういうのを言うんじゃないかな』って思うんだ。家計を支えてるっていう以上に、家族が家族でいられるように支えることを言うんじゃないかなって」


「あはは、それは買いかぶり過ぎだよ。僕は自分の頼りなさが時々イヤになることもあるのに」


そう言った僕に、玲那はグイッと顔を突き出してきて、さらに指で胸をつついてきた。


「分かってないな~、お父さん。お父さんが頼りないと思ってるのはお父さんだけだよ。お父さんは自分を過小評価しすぎ。お父さんって、普通の人じゃそうそうできないことを当たり前みたいにやってるんだよ?。事件を起こした私をこんなに愛してくれるなんて、普通はなかなかできないよ」


『事件』。その言葉をこんなところで使うことにギョッとしてしまうけど、玲那の『声』はスマホに繋いだイヤホンから聞こえてきてるから、他人には聞こえてない。それを思いだして安心する。


「だけど、それは結局、玲那だからだよ。もちろん、沙奈子や絵里奈でも同じようにしたとは思うけど、だからって本当に誰にでも同じようにできるわけじゃない」


「そうかもね。でもそれは私たちも同じだよ。お父さんだからできるっていうのはある。


結局、そういうことなんだろうね。どっちかだけが一方的に守ってもらおうとすると上手くいかないってことなんじゃないかな」



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