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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十六 結人編 「善意の押し付け」

八月二十四日。金曜日。昨日は、山仁やまひとさんの家から帰ってきた後で雨や風が強くなってきた。暴風警報そのものは四時前くらいに出てたらしいけど、夕方までは『少し風があるかな』程度の実感しかなかった。


ガタガタゴトゴトと、強い風にあおられていろんな物音がしてる中、僕は沙奈子を膝に抱いていつものように人形のドレスを作ってるのを見守ってた。轟々と風の音もすごいのに、沙奈子はまったく気にする様子もない。


ビデオ通話の向こうの絵里奈と玲那もいつもと変りなかった。


もちろん、台風に対して警戒はするけど、心配し過ぎて不安になるのは違う気がする。


深夜、僕のスマホがけたたましく鳴り響いた。避難勧告が出たことを知らせるメッセージの着信音だった。だけど同じ区内と言っても山を越えた辺りのそれだったから、はっきり言ってこっちには関係ない。


雨も風も強いものの、不安を感じるほどのものでもなかったと思う。


緊急速報の着信音で沙奈子も目が覚めてしまったみたいだったから、きゅっと抱きしめてあげた。するとまたすぐ、すうすうと静かに寝息を立て始める。


そのぬくもりを感じながら、外の気配に耳を澄ます。特に危険な様子はない。雨も風も、むしろ収まってきてるくらいだ。念のためにスマホでこの辺りの警報とかを確認しても、大雨洪水暴風警報が出てるだけで、他は避難準備情報さえ出てなかった。河の水位も、水防団待機水位で収まってる。


それを確認したことでホッとして、僕も沙奈子の寝息を聞きながらまたうとうとし始める。


でもふと思う。


鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんはどうしてるんだろう…?』


鷲崎さんが『お母さんになりたい』と言ってくれたとはいっても、そんなすぐ結人くんがそれを受け入れられるとは思えない。こうやって一緒に寝るなんて、彼がもう六年生だってことから考えてもさすがにないだろうな。だけど彼にも知ってほしいと思う。お互いに大切に想ってる人と触れ合っていられることがどんなに自分の気持ちを穏やかにしてくれるか。


だけど、それを押し付けるわけにもいかない。そんなことをしたら彼はきっと逆に反発して不信感を募らせるだろうから。『善意の押し付け』は、悪意に等しい。『こうするのが正しいんだ!』というのを押し付けるのは、むしろ害意だと思う。


僕たちはそれを忘れないようにしたい。僕たちがいくら幸せだからって、『こんな風にすれば幸せになれるんだ!』と彼に押し付けることはしないでおこう。


ただ、彼の前で僕たちらしくいればいいと思うんだ。



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