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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十三 結人編 「今度は結人くんの」

八月二十一日。火曜日。どうやらかなり暑さがぶり返してきたらしい。また気を付けないといけないな。


次の日曜日まで、僕は、まあ、『夏休み』って言っていいのかな。元々そうだったんだけど、先週の金曜日でもう『来なくていい』ってことになって、でも鷲崎わしざきさんが勤めてる会社で実際に勤め始めるのは来週月曜日からだし。


ちなみに、厳密には今月いっぱい、前の会社に在籍してる形にはなってる。有給の残りを消化するためだ。でも、たとえそうだとしても、いきなり行かなくなっても困らないくらい、辞めさせたかったんだなあってしみじみ思う。


そんな僕のところに、鷲崎わしざきさんは転職の機会を持ってきてくれたんだ。


日曜日、沙奈子に抱き絞められて泣いてしまった後、彼女自身がそれに戸惑ってた。


「なんで…、私、なんでこんな…」


言葉にならない彼女に、話し掛ける。


「いっぱい頑張って気を張ってきたんだね。それがふと緩んでしまったんだと思う。


でも、それでいいと思うよ。


人間、時には気を緩めることも必要だって、僕は沙奈子や絵里奈や玲那を始めとした多くの人たちから教わった。張り詰めてるだけじゃダメなんだって、それじゃもたないって、教わったんだ。


だから織姫さんも僕たちに甘えてくれたらいい。織姫さんは十分に頑張ってるからね」


僕がそう言うと、彼女はまた泣き出してしまった。張り詰めていたものが一気に緩んでしまったんだろうな。


この時、僕は敢えて『鷲崎さん』じゃなくて、『織姫さん』って彼女を名前で読んでた。自然にそう呼んでたんだ。そのあとまたすぐ『鷲崎さん』に戻ったけど、この時だけは何故かそうした方がいい気がしたのかもしれない。


ビデオ通話の画面の向こうから絵里奈と玲那も見てたけど、何も違和感がなかった。二人も僕が彼女を名前で呼んだことに何も言わなかった。それだけ自然だったんだと思う。


けれど、結人ゆうとくんは、呆気にとられた表情で鷲崎さんを見てた。彼には何故彼女が泣いてしまったのか、分かってなかったんだろうな。それがきっと、今の結人くんの限界なんだろうな。


彼にはこれからも、いろんなことを見ていってもらわないといけない。見て、記憶していってもらわないといけない。どんな時に人がどんな表情をするか、どんな気持ちになるかっていうのを。


そうすることで彼は成長していくんだろうな。彼の知らなかったものを知っていってもらうんだ。大人にもいろんなのがいて、みんながみんな敵ってわけじゃないってことを知って、成長していくんだ。


沙奈子も変われた。千早ちはやちゃんも変われた。


今度は結人くんの番だよ。



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