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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十二 結人編 「興味津々」

八月二十日。月曜日。土日に比べると少し暑さが戻って来たかなという気もするけど、でも一時のことを思えば随分とマシだった。


そんな今日、僕は鷲崎わしざきさんと一緒に、彼女が勤めてる会社に行って面接を受けてくる。と言っても、実際には電話でやりとした段階でほぼ決まってたから、実際には入社のための手続きをしに行くだけって感じだけど。


すると鷲崎さんが、


「沙奈子ちゃんも一緒に来る?」


って。


「え?、でも迷惑なんじゃ…?」


と焦る僕に彼女はウインクして、


「大丈夫ですよ。社会見学です。沙奈子ちゃんだっていずれは会社務めするかもしれないですから、そのための予行演習だと思えば」


とか言うけど、本当に大丈夫なんだろうか。


だけど会社に着くと、


「いらっしゃい!、あなたが沙奈子ちゃんね!?」


と、いきなりふりふりのドレスを着た年齢不詳の女性が出迎えてくれて、大歓迎してくれた。


「沙奈子ちゃんのドレスの大ファンの一人、洲律命乃すりつみこのさんです」


鷲崎さんが僕に耳打ちする形で説明してくれて、ようやく「ああ…!」と察することができたんだ。


で、沙奈子はその洲律さんの机に連れて行かれて、でもその机に置かれた大きな人形にハッとなるのが見て取れた。その人形が着ていたドレスが、間違いなく沙奈子が作ったものだったから。


それに気付いてからは沙奈子も落ち着いた感じだったし、あとは鷲崎さんに任せて僕は面接のために応接室へと案内されるままに入っていった。


その後は、すごく理性的な印象のある、いかにも『管理職』って感じの男性から、会社の概要と、契約内容の説明を受けて、僕の方も特に気になったことはなかったからそのまま書類を作って、さっそく来週から仕事を始めることに。


面接が終わって応接室から出ると、沙奈子の周りには何人もの女性が集まってた。少し戸惑ってるのが分かったけど、鷲崎さんが一緒だからかそんなに追い詰められた感じでもなかった気がする。


実は昨日、泣き出した鷲崎さんを沙奈子が抱き締めると、彼女に縋るようにして余計に泣き出しちゃって。その時の沙奈子の姿が、子供をあやしてる母親の姿にも見えたんだ。それがきっかけになったのか、鷲崎さんと沙奈子の距離が一気に縮まった印象もあった。そのおかげもあるのかもしれない。


沙奈子も決して人付き合いが得意な子じゃないけど、相手のことを受け止める度量があの子にはちゃんとあるんだ。あとは、相手が沙奈子を受け止めてくれるかどうかの問題だと思う。だからこの時は、沙奈子が洲律さんの人形が着てるドレスの作者だっていうことで、すごく関心を持たれてたらしい。それに、みんな優しかった。


僕の面接よりはよっぽど長い時間がかかって解放されて、僕たちは帰ることになった。鷲崎さんはこのまま打ち合わせがあるそうだから、沙奈子と二人で帰る。


注意深く様子を窺うと、沙奈子は少し疲れた様子だったけど、決して嫌そうな様子じゃなかった。


「みんな沙奈子がドレスの作者だっていうのに興味津々だったみたいだね」


僕の言葉に黙って頷く様子も、割と落ち着いてた気がしたのだった。



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