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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八十 結人編 「自分にできないことは」

八月十八日。土曜日。


これまで勤めていた会社を辞めて、僕は何とも言えない解放感を覚えていた。すごく心も軽くなった気がする。こうしてみると、自分ではそんなに気にしてなかったつもりでも、思っていた以上に負担になっていたんだと実感できてしまった。


ある意味では、気にしないように自己暗示を掛けていたんだなっていうのも察せられてしまう。


だけどそれももうお終いだ。


不思議な晴れやかさも感じながら、鷲崎わしざきさんと結人ゆうとくんを迎えることができた。午前の勉強の為だ。


でも実は、結人くんの方の夏休みの宿題も、後は自由課題を残すだけになってた。だから今やってるのは、沙奈子と同じ『自主勉強』だ。


「なんで今までこうしてあげられなかったんでしょう…?」


鷲崎さんが明らかに落ち込んだ様子で言ってたりもした。


でもそれに対しては僕は言う。


「僕だってはっきりとこうすれば上手くいくと分かっててやってたわけじゃないよ。たまたま彼には合ってたというだけだと思う。


もちろん、『上手くいけばいいな』という目算はあったよ。けれど、だからといって自信があったわけでもない。


それだけのことだと思うんだ」


僕のその言葉に、鷲崎さんは困ったように笑みを浮かべて、


「その、『それだけのこと』というのが難しいんだと思います」


って。


確かにそうかもしれない。できる人間にとっては『それだけのこと』でも、できない人間にとってはできないんだ。百メートルを十秒とは言わなくても十一秒台で走ることさえ、できる人間には『できて当たり前の、それだけのこと』だとしても、僕にはできない。『十年トレーニングを積めばできる』とか言われたとしても、その『十年トレーニングを積む』ことがそもそもできない。僕には、百メートルを走るタイムを競う意味がまず理解できないから。


そういうこともあって、僕は、『自分にできることは他人にもできて当然』という考え方もしないように心掛けてる。


僕は、事件を起こしてしまった玲那を見捨てることはしなかったけど、だからって他人も同じようにできるとは思わないようにしてるんだ。


ただ、同時に、何か罪を犯したからって自分の家族を見捨ててしまえる人が何か偉そうなことを言ってきたとしても、耳を傾ける気にはなれないなっていうのは確かなんだけどね。


同じように、結人くんのことを『クソガキ』とか言って見捨ててしまうような人の言うことにも、耳を傾けることはできないな。


そして、『自分にできないことは他人にもできるはずがない』と思ってる人の言葉にもね。



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