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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百七十七 結人編 「僕たちの日常が少し」

八月十三日。月曜日。


僕の夏休みは今週末からなので、沙奈子には今日からまた、僕が帰るまでは山仁やまひとさんのところで待っててもらうことになる。


これはもう当たり前みたいになってるから自然と用意を済ませて家を出る。


「いってらっしゃい!」


鷲崎わしざきさんに見送られ、山仁さんの家でも沙奈子と千早ちはやちゃんと大希ひろきくんに、


「いってらっしゃい!」


と見送られ、僕は会社へと向かった。


そのバスの中で、昨日のことを思い出す。


「うっわ、ウマっ、コレ。めっちゃ悔しいけど美味しいよ、泣ける~。凹まされる~」


千早ちはやちゃんたちが作ったビーフシチューを食べたた時の鷲崎わしざきさんの第一声がそれだった。


その時の『泣ける~。凹まされる~』と言いながらも嬉しそうな表情を思い出すと、勝手に顔がほころんでしまう。


『彼女にもいい人が見付かってくれたらいいな』


それは、僕の正直な気持ち。


ただ、それについて、ふと気になることがあった。秋嶋あきしまさんの友達で、『沙奈子のファン』の一人で、確か十号室の、喜緑きみどりさんっていったかな。その人と最近、アパートの前でも時々顔を合わせるんだけど、それはだいたい、鷲崎さんと一緒にいる時なんだ。しかも、彼の視線は、僕や、ファンであるはずの沙奈子にじゃなく、どうも鷲崎さんに向けられてる気がする。


だから先日、玲那に聞いてみたんだ。


「ねえ、玲那。確か十号室の喜緑さんって、沙奈子のファンだったよね?」


「うん。そのはずだけど、とっくんがどうしたの?」


『とっくん』?。とっくんって呼んでるんだ?。


まあそれはさておいて、


「実は、彼が最近、鷲崎さんのことが気になってるっぽいんだけど、何か心当たりある?」


と単刀直入に尋ねる。すると玲那は目を見開いて、


「なんですと!?。とっくんが織姫を!?。マジ!?。


あ、でも、そっか~。『織姫×とっくん』か~。あ~、ん~、アリっちゃあアリなのかな~。でもとっくんてば『チッパイスキー』だったはずなんだけどな~、宗旨替えしたのかな~。


よし、今度尋問してみるよ」


『尋問』って、そんなスパイとかじゃないんだから。


まあそれはそれとして、後は玲那に任せておいたらいいのかな。


なんてこともあったりしつつも、僕たちの日常は特に変わりなく繰り返されてるように思ってたんだ。


だけど、この日、仕事を終えて沙奈子と一緒に部屋に帰ってから鷲崎さんや結人くんと一緒に夕食を食べてた時、


「実は、私の会社で工業デザイン系のCADの経験者を募集してるんですけど、もしよかったら山下さん、どうですか?」


って鷲崎さんが。


それをきっかけに、僕たちの日常が少し変化することになったのだった。



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