七百七十六 結人編 「早くそこに加われると」
「沙奈もさあ、可愛いんだからもうちょっとファッションとか気にした方がいいんと思うんだよね。正直、今の格好って地味よ地味」
みんなでビーフシチューを食べている時、不意に千早ちゃんがそんなことを言い出した。すると沙奈子は、
「私はこれでいい。派手なのは苦手。千早みたいにはできない…」
と呟くように応え、それを見ていた大希くんが、
「沙奈は今のままで別にいいと思うけどな。あんまりにぎやかな感じなのはキャラに合わないと思うし。って言うか、千早がはっちゃけ過ぎなんだよ。やり過ぎで女の子らしい可愛げがなくなってる」
などと身も蓋もない突っ込みを入れたりしていた。それに対して千早ちゃんも、遠慮がない。
「べーっ!、っだ。どうせ私は色気ない女ですよ~だ。でもいいも~ん、私は男にウケるためにやってるんじゃないも~ん」
だって。確かに、僕はあまり気にならなかったけど、改めて千早ちゃんの格好を見ると、なるほど女の子らしい可愛い感じの色合いの服なんだけど、サイケデリックと言うかパンキッシュと言うか、とっ散らかった印象があるのは否めないのかな。
ただ、ある意味では『千早ちゃんらしい』とは思う。可愛さよりも自分の中にあるエネルギーみたいなのが溢れ出てる感じかもしれない。『すごく元気』なんだ。元気がないとこの感じの格好はできない気もする。
でも沙奈子に似合うかと言われれば、まったくそうは思わないかな。沙奈子も内面の深いところには激しい衝動が秘められてたりはするけど、それでも基本的にはこの子は『静』だと思うし、千早ちゃんが持つ『動』の雰囲気とは正反対って印象はある。
その点で言えば、大希くんはすごく『普通』なんだろうな。派手過ぎず地味過ぎず。『調和型』って感じかも。
三人それぞれ、まるで個性は違うのに、不思議とまとまりがある。
いや、違うからこそのまとまり、なのかもね。互いが互いを補い合ってるのかもしれない。
それで言うと、結人くんも見た目は大希くんに近い印象なんだけど、これはあくまで鷲崎さんが買ってきてくれるのをそのまま着てるだけだからか。鷲崎さん自身の『願望』みたいなものが現れてるんだろうか。
『みんなとうまく折り合って、仲良くして欲しい』
っていう。
三人が帰った後、鷲崎さんと結人くんも自分の部屋に帰った後、ビデオ通話の中で言ってたんだ。
「沙奈子ちゃんたちの様子を見てたら、なんだか泣きそうになっちゃいました。すごく仲が良くて、噛み合ってて。
結人も早くそこに加われるといいんですけど……」




