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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百七十 結人編 「裏切られてもかまわない」

八月六日。月曜日。




僕は、昨日の海でのことを思い返していた。鷲崎わしざきさんがナンパされてた時の結人ゆうとくんの表情を。


しつこいナンパに絡まれていた鷲崎さんを助けようとして結人くんが何かをしようとしてたのは間違いないと思う。


だから僕は思ったんだ。やっぱり彼は、鷲崎さんのことを大切に思ってるんだって。本人は自覚してないかもしれないけど、それを指摘したらムキになって否定するかもしれないけど、たぶん、間違いない気がする。


でも、その気持ちも分かる気がするんだ。だって、昔は僕も同じように考えてたから。


もちろん、実の母親に殺されそうになるなんてとんでもない経験をした彼と同じだとは言わないよ。けど、昔の僕も、他人を全く信じてなかった。他人を信じるなんて馬鹿のすることだみたいに考えてた覚えもある。なんて感じだから、


『そんなこと言ったって、本心では誰かのことを信じたいとか思ってるんだろ?』


とか言われたら、


『そんなわけない!』


ってムキになって否定してたんじゃないかな。


ただ、正直、それは今でも大きくは変わってない。今でも他人のことを心から信じるなんてできてるとは言えない。


沙奈子のことも、絵里奈のことも、玲那のことも、心のどこかでは『裏切られたって仕方ない』みたいに思ってるのも事実なんだ。


『沙奈子になら、絵里奈になら、玲那になら、裏切られてもいい』


みたいなことを思える相手だっていうだけで、


『沙奈子たちが僕を裏切ったりするわけない』


っていう形で信じてるわけじゃない。


僕にとっての『人を信じる』っていうのは、そういうことなんだ。


結人くんも、鷲崎さんのことならそんな風に思えるようになるんじゃないかなっていう、根拠は何もないけど予感めいたものならある。


だからそんな予感が当たってるかどうかを確かめるためにも二人のことを見守りたいっていう気持ちもある。


鷲崎さんになら、裏切られてもかまわない。


彼女は、そんな風に思える人の一人だ。


大学時代、彼女は僕のことをとても大切に思ってくれていた。しかも、それは今でも続いてるんだろうな。


以前の僕は、そんな彼女の気持ちに応えることができなかった。それどころか負担にさえ感じてた。でも今なら素直にその気持ちを嬉しいと思える。付き合うとか結婚するとか、そんな形では受け入れることはできなくても、僕を大切に想ってくれる彼女のことは僕も大切にしたい。そして、彼女が守ろうとしてる結人くんのことも僕は守りたい。


それが報われなくてもいいんだ。


そう想える相手だからそうしたいっていうだけなんだから。


結人くんもいつか、いや、無意識のうちでは今でも、そう想ってるんじゃないかな。



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