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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百六十九 結人編 「いい思い出に」

それから後も何度か、鷲崎わしざきさんはナンパに声を掛けられたけど、全部、僕が『連れアピール』することで撃退した。今回はそれで上手くいった。


でも、監視所からも、そしていつもの監視員さんからも近い場所にパラソルを立てて、元々対策はしてたんだけどね。


しかも、星谷ひかりたにさんも来てるということは、彼女を守るためのガードマンも、少し離れたところから監視してくれている。万が一の時は星谷ひかりたにさんが矢面に立ってガードマンを呼んでくれる手筈になってた。


だからもし、結人ゆうとくんが鷲崎さんを守るために何かしようとしてたんだとしても、元々その必要がなかったんだ。彼にはそんなことはさせられない。今の彼のやり方じゃ、それはきっと『事件』になる。そして事件になれば、守りたかったはずの鷲崎さんを苦しめることになる。


それじゃ意味がないんだ。


僕たちは弱い。星谷ひかりたにさんは特別だとしても、それ以外の一人一人は何の力ももたない小動物みたいなものだ。でもだからこそ、知恵を絞って自分達の身を守るんだ。


海水浴客の少ない早い時間から来たのもその一つ。人が少ないということは、それだけナンパ目的で来てる人も少ないだろうっていうことだから。


そんなこんなで、大きなトラブルもなく、お昼過ぎになってさすがの千早ちはやちゃんにも疲れの色が見え始めると、今回はお開きということになった。


「じゃあ、シャワーを浴びてお昼を食べて帰ろうか」


「は~い!」


千早ちゃんと大希ひろきくんと鷲崎さんが声を合わせて応える。


遊ぼうと思えばまだ遊べなくもないけど、せっかく楽しめたんだから、楽しいうちに帰るのも身を守るコツの一つだと思う。


「いや~、楽しかった!」


お昼を食べ終わっていよいよ帰ろうってなった時、千早ちゃんがそう声を上げた。すると、みんなも、他のみんなに比べると少し分かりにくいかもだけど沙奈子まで、笑顔になった。


これで、夏休みの日記のいいネタができたと思う。


じゃあ、楽しいうちに帰ろうか。


帰りの電車の中、沙奈子は僕に、千早ちゃんと大希くんは星谷さんにもたれて寝てた。星谷さんはそれでテンションが上がってしまったのか、顔を赤くしたまま固まってる。これはきっと、家に帰ってからどっと疲れが出るやつじゃないかな。


ただ、結人くんだけはみんなと離れたところに座って、眠そうにしてるのに必死にそれに耐えてるような感じで、時々、カクンと頭が落ちつつ、だけど怒ったみたいなムスッとした顔で窓の外をじっと見詰めてた。


僕はそんな様子を見ながら、鷲崎さんに言う。


「今日は誘っていただいてありがとうございました。みんな楽しめたみたいです」


すると、彼女は頬を染めながら、


「いえいえこちらこそ!。おかげで結人もいい思い出になったと思います!」


と手を振ったのだった。



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