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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百六十七 結人編 「他人との距離感を彼なりに」

だけど、星谷ひかりたにさんがこっちにいるのは、千早ちはやちゃんたちの荷物を見なきゃいけないっていうのもあるのが分かってたから、


「荷物は僕が見てるから、星谷さんも楽しんできたらいいよ」


って僕が声を開けると、


「すいません、お願いできますか?」


と嬉しそうに笑顔で大希の傍へと駆け寄っていく。海そのものには別に興味ないけど、大希ひろきくんのそばにはいたいってことなんだろうな。


星谷さんがいなくなると今度は結人ゆうとくんがビーチパラソルの下に座った。


「結人くんはあまり海は好きじゃないのかな?」


なるべく詰問するような感じにならないように、何気ない風を心掛けながら話しかけてみる。


その問い掛けに、結人くんは黙って頷いた。その上で、やはり憮然とした態度のまま言った。


「泳ぐのは嫌いじゃねーけど、海はあいつらみたいにはしゃぐばっかりのが多くてあんまり泳ぐって感じじゃねーから」


態度や言葉遣いは決して褒められたものじゃないけど、まさかそうやって答えてもらえるとは思ってなかったから、少し驚いてしまった。


でも同時に感じたんだ。このくらいなら話してもいいと思ってもらえたんだって。


結人くん自身は意識してるかどうか分からない。ひょっとしたら、彼自身、自覚してないかもしれない。自分ではそんなつもりはないかもしれない。だけど、間違いなく初めて顔を合わせた時からは彼は変わってきてる。僕たちとの距離が狭まってきてる。


けれど、焦らない。無理にこちらから距離を詰めない。あくまで彼が自分から近付いてきてくれるのを待つ。


「そうか。僕は泳ぐのも苦手だから、羨ましいよ」


敢えてどうでもいいような返答をしてその場は流した。


彼がもし、意識して近寄ってこようとしてくれてるのならもう少し違った言い方をするんじゃないかな。だから今のはあくまで意識してないものだと思うんだ。


それっきり、結人くんは何も言わなかった。僕も何も言わなかった。ただただ黙って海で遊んでるみんなを見守ってただけだった。


でもそこに、


「沙奈~、ちょっとくらいは海に入ろうよ~!」


って言いながら千早ちゃんがやってきて、沙奈子を連れて行ってしまった。沙奈子も別に嫌がってる風じゃなかったから僕も「気を付けてね」と見送っただけ。


二人きりになってしまっていよいよ居心地が悪くなってきたのか、結人くんも不意に立ち上がって海へと入っていってしまった。


だからといってみんなと遊ぶわけじゃないけど、それでも逃げてしまうわけでもない。彼は今、他人との距離感を彼なりに掴もうとしてるんだろうな。



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