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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百六十五 結人編 「親しい隣人としてなら」

八月四日。土曜日。


今日も、絵里奈と玲那に会いに行く。今回はまた、いつもの人形のギャラリーとは別の、人形の展覧会があるということでそちらに行くことになった。


台風の後で少し涼しくなったような気がしてたけど、また暑くなってきた。そうなると当然のように、


「気を付けて行ってきてくださいね」


と、鷲崎わしざきさんが見送ってくれる。


「ありがとう。気を付けて行ってくるよ」


そう応えさせてもらって、沙奈子と一緒にバス停に向かった。


もちろん帽子を被って、首には保冷剤が入ったタオル地の暑さ対策グッズを掛けて、スポーツドリンクを入れたドリンクホルダーも持って。


僕は根性論や精神論を信じていないから、ちゃんと効果のある対策を取りたいと思う。


それからさすがに平日の通勤時に比べればまだマシでエアコンも効いてるバスに揺られながら、鷲崎わしざきさんのことを思い出す。


彼女は、確かに『僕のことを好きだという気持ち』に正直だと思う。だけど、僕の家庭を壊してまで、沙奈子や絵里奈や玲那を傷付けてまで自分の気持ちに正直になろうとはしてない。


他人の家庭を壊してでも『その人のことを好きな自分の気持ち』に正直になろうとしてる人もいる。


だけど僕はそういう人とは関わりたくない。そういう人は、他人を傷付けるようなことさえ『自分の気持ちに正直になるのが正しい』って言って正当化しようとするから。


鷲崎さんはそういう人じゃないからこそ、僕は大切にしたいと思うんだ。


そう。他人を傷付けてでも苦しめてでも『自分の気持ち』を押し付けようとする人は、大切にしたいと思えない。


こう言えばきっと、『それはお前の気持ちを他人に押し付けようとしてるってことだ』と言う人もいると思う。


だけど、それはおかしいよね。だって僕は、『押し付けてこられなければ僕の方から拒絶する』つもりもないんだから。鷲崎さんが僕の気持ちを無視してまで自分の気持ちを押し付けてこないから、こうして鷲崎さんのことを受け入れることができてるんだから。


僕は、『沙奈子や絵里奈や玲那を傷付けてでも僕と付き合いたいとか結婚したいとかいう気持ち』は受け入れることはできない。でも、あくまで親しい隣人としてなら、力になることだってできる。


そういう分別を付けられない人が、他人を大切になんてできるのかな。ストーカーって結局、そういう分別を付けられない人がなるものなんじゃないかな。痴情のもつれから事件を起こす人って、そういうことなんじゃないかな。


鷲崎さんはそうじゃないから、僕はこうしていられるんだ。





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