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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百六十一 結人編 「善意のように見えるもの」

七月三十一日。火曜日。


昔から僕は、人間の『善意』というものを信じてなかった。いかにも善意っぽく見えるものも、ただ『そう見えるだけ』だと思ってた。


実はそれは、今でも変わってない。『善意』や『優しさ』という言葉を軽々しく使う人に対しては眉に唾して見る癖がついてる。


そして、僕がしてることも決して『善意』からじゃない。そんな風に思われると、違和感しかない。


きっと世間的にはそういうことにしておいた方が印象がいいんだろうな。でもやっぱり、『善意』という言葉じゃ、僕のやってることはピンとこないんだ。


『難しく考えすぎだ』と言う人もいると思う。だけど僕は、自分の中に生じた違和感を見なかったことにはもうできない。何もかも諦めたつもりで死んだように生きてた頃なら、考えないように、見ないようにできたかもしれなくても、今はもう無理なんだ。


沙奈子と、絵里奈と、玲那と、みんなに出会ってしまったから。それに気付かなかった、ううん、無意識に気付いてないふりができてた頃には戻れない。


僕は『善意』とか『正義』とか『優しさ』とかとかいった言葉が基本的に嫌いで、一切信じてないクセに外面だけはそういうのを信じてるように見せかけてた自分に気付かないふりをしてた僕にはもう戻れないんだ。


だって、絵里奈も玲那も山仁やまひとさんも、そういう、耳に心地好い美辞麗句を信じてるわけじゃないから。むしろそういうものを信じないようにしたから今の幸せがあるんだって分かる。


善意や正義や優しさと言われているものの多くが『嘘』だっていう現実を受け入れたからこそ、僕たちはお互いに支え合うことができてるんだ。


一見、矛盾してるように見えるかもしれないけど、そうじゃない。


『善意じゃないもの』が全て『悪意』なわけじゃない。


『悪意じゃないもの』が全て『善意』なわけじゃない。


『善意のように見える悪意』もあれば、


『悪意のように見える善意』もある。


この世はすべて、『ゼロか百か』でできてるわけじゃない。


善意のように見えるものすべてを善意だと思ってると、痛い目を見る。だって、他人が示す『善意のように見えるもの』の多くには、打算や願望や期待や欲望が紛れ込んでいるから。実は全然そうじゃないのに、綺麗なように見せかけているものがあるから。


そういうものがほとんどだと思うからこそ、善意のように見えていたものがそうじゃなかったと分かってもいちいち腹を立てずに済んでるんだ。


相手も自分も綺麗なだけじゃないことを分かってれば、自分の思った通りに他人が動いてくれなくてもちいち腹を立てずに済むんじゃないのかな。



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