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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百五十五 結人編 「自分の間違いや失敗を」

七月二十五日。水曜日。


僕はぜんぜん立派な人間じゃない。だけど、それを悲観して卑屈になる必要もないと思ってる。『できないこともある』のは確かでも、『何もできない』わけじゃないっていうのが、沙奈子と一緒に暮らしてきて分かった。


僕にだってできることがあるんだって。


できることとできないことがあるのが普通なんだって、実感することができたんだ。


そして、自分にはどうしてもできないことは他人を頼ればいいんだって。その代わり、他の誰かにはできないけど僕にできることなら力になればいいんだって。


人間はそうやって生きてるんだって。


僕の両親はそれを教えてくれなかった。たぶん、両親自身がそれをちゃんと実感してなかったんだろうな。両親の両親がそれをちゃんと教えていなかったんだと思う。それを教えるような人たちじゃなかった。


だから、『教わってもいないことができない』のも、当たり前だと思うんだ。勉強を楽しく集中してするやり方を、分かるように教えてないのに、子供が勝手にそういうのを身に付けるのを期待するのなんて、おかしいよ。


どうしても自分がそれを教えられないのなら、他人を頼ればいいんじゃないかな。


何でもかんでも自分の力だけでできるのが『一人前』っていう思い込みが世の中にあるらしいのは感じるけど、僕はそれに囚われないでおこうと思う。


だって、『何でもかんでも自分一人でできる人間』なんて、きっと、存在しないから。


そんな、存在もしない空想上の『誰か』を基準に考えるなんておかしいと思うから。


僕は、自分にできないことがあってもそれを僻まないでいたい。


『自分には何もできない。自分は何もできない駄目な人間だ』とは、考えないようにしたいんだ。考えてしまったとしても、それに囚われてしまわないようにしたい。僕がそうなってしまったら、沙奈子もそれを見倣ってしまうかもしれないからね。


自分にはできることとできないことがあるっていう事実を認めて、自分は完璧でもなければ何一つ失敗しないような人間じゃないって認めて、上手くいかなかった時には自分にも原因があるっていうのを受け止められるようにしたいんだ。


上手くいかなかったら何でもかんでも子供のせいにしてただ喚き散らすだけの大人にはなりたくない。


子供の前で、そういうみっともない真似をしたくない。


みっともなくて不様なところもあるのは事実でも、それに目をつぶって見ようともしない姿を沙奈子に見せたくないんだ。自分の間違いや失敗と向き合うことができる大人の姿を、沙奈子には見せてあげたい。そして沙奈子自身も、自分の間違いや失敗を認められる人になって欲しいと思うんだ。



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