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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百五十二 結人編 「立場や状況がその人を」

七月二十二日。日曜日。


昨日も、絵里奈や玲那と会いに行く時に鷲崎わしざきさんがわざわざ日傘をさして一回まで降りてきて見送ってくれた。


「今日も暑いから気を付けてくださいね」


先週は気遣ったつもりで余計なことを言ったからか怒らせてしまったし(本気で怒ってたわけじゃないにしても)、今回は素直に、


「うん、ありがとう」


って応えておいた。そしたら彼女も満足そうに笑ってた。




そして今日、いつものように千早ちはやちゃんたちが来て、カレーを作ってた。


「織姫さんと鯨井も食べるよね?」


ということで、夕方、鷲崎さんと結人ゆうとくんが食べる分まで用意してくれる。本当に優しいな。だけどそれは、今、彼女にそれだけの余裕があるからなんだっていうのも事実なんだろうな。お母さんやお姉さんたちからの暴力がやみ、台所をはじめとして家の中全般を掌握したことで立場が逆転、千早ちゃんが『お母さん』、お母さんやお姉さんたちが『子供』的な状態になったことで生まれた余裕なんだと思う。


だから状況によって人間は変わるんだ。善人なだけの人間もいないし、悪人なだけの人間もいない。立場や状況がその人を変えるっていうのがすごく分かる気がする。


それは、結人くんのファンクラブの女の子たちも同じ。


「ホントはさあ、家であったかく迎えられてれば、外に癒しとか求めなくていいと思うんだよね。自分がそうだから余計に思うんだけどさ」


カレーを食べながら千早ちゃんがしみじみと言った。その言葉が僕にもすごく響いてくる。そうだな。子供の頃、僕の家にも『あたたかさ』みたいなものはまるでなかった。家族の団欒っぽい演出はあっても、それは本当にただの『演出』に過ぎなくて、とてもうすら寒い、白々しい空間だったと思う。事情を知らない他人からそう見えるだけの、形だけの『仲良し家族』。そういうのが僕の精神を蝕んでいたいたっていうのが今ならよく分かるんだ。


そんな家庭しか作れないのなら、いっそ別れてしまえばよかったのに。


両親に対してはそういう想いもある。


だからこそ、僕は、そんな家庭にしたくないんだ。絵里奈となら『あたたかい家庭』を作れる予感があったから、結婚したんだ。それがなかったら、あんな風に迫られてたって承諾はしてないと思う。


千早ちゃんたちが帰った頃、仕事がひと段落ついたっていうことで鷲崎さんがビデオ通話に加わってきた。


「今夜はカレーです」


そう告げた僕に、彼女は、


「やったあ、楽しみです♡」


とまん丸な顔をさらにまん丸にして喜んでた。


鷲崎さんもきっと、すごくあたたかい家庭を作れるタイプだと思うんだ。



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