七百四十七 結人編 「謝ってくれた」
七月十七日。火曜日。この暑さはいつまで続くんだろう。沙奈子にはしっかりと水を持たせて帽子もかぶって学校に行ってもらう。
「少しでも具合がおかしいと思ったら先生に言ってね」
僕の言葉に彼女も「うん」と頷いてくれた。学校で、熱中症で子供が亡くなる事故が毎年のようにあるから他人事じゃないと思う。
ただ今日は、そういうのとは別の意味で問題があったみたい。
「今日ね、鯨井のファンクラブの子が、沙奈を呼び出してたんだ。なんか、自分たちが遠慮してるのに普通に鯨井と一緒にいたりするのが気に入らないみたいなこと言ってたみたいでさ」
ええ?、なにそれ?。
いつものように迎えに行った時に千早ちゃんにそう聞かされて、さすがに驚いてしまった。
「沙奈子は大丈夫だった?」
僕が思わず聞き返すと、
「うん。沙奈がファンクラブの子らに呼び出されたのを教えてくれた子がいてさ。私とヒロが駆けつけたんだ。でさ、そん時、私とヒロだけじゃなくて、鯨井も来てたんだ」
って。
「結人くんが…!?」
「うん。あいつも気になってたみたいだね。だったらこそこそしないでちゃんと出てって言えばいいのに」
「こそこそ?」
「そうなんだよ。あいつ、校舎の陰で見ててさ。ま~、私とヒロが先に駆け付けたから出るタイミングなくしただけかもしんないけど」
「そんなことがあったんだ……?」
この後、二階に上がってから星谷さんに詳しく事情を説明してもらって、ようやくだいたいの状況が分かった。千早ちゃんから聞いた話を要約して話してくれたんだ。
それによると、結人くんのファンクラブの子たちは、自分たちが遠慮して結人くんに話しかけたりしないようにしているのに、席が隣同士ってこともあって、沙奈子は普通に接してたんだ。それがファンクラブの子たちには面白くなかったらしくて、沙奈子に『馴れ馴れしくしないように』釘を刺そうとしたらしい。
だけど沙奈子が呼び出されたのを見てた子が千早ちゃんと大希くんにそれを教えてくれて、しかも、結人くんも沙奈子たちの後をつけてたみたいで。
ファンクラブの子たちの沙奈子へのそれは、結局は自分たちが思うようにならないことの八つ当たりでしかなくて、千早ちゃんが、
「あんたたちもさあ、沙奈が男の子に興味ないの知ってるでしょ?。鯨井くんとも別に何でもないよ?。いっつもそばにいる私とヒロが保証する。だから心配要らないって。あんたたちはあんたたちで好きにやったらいいんだよ。それを鯨井くんがどう思ってるかは知らないけどさ」
みたいなことを言ったら冷静になれたみたいで、すぐに、
「ごめん」
って謝ってくれたってことだった。




