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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百四十一 結人編 「それでバランスを」

七月十二日。木曜日。


世の中には、他人が甘えることをひどく毛嫌いする人がいるみたいだ。


だけど、そうやって『他人が甘えようとするのが許せない』とイライラするのって、それがもう『甘え』だと思うんだ。


『自分は甘えたくても甘えさせてもらえないのに、甘えさせてもらうとかズルい!』っていうその考え方そのものが甘えなんじゃないかな。


だから僕は、そういう考え方はしないでおこうと思う。そういう形で甘えるのは避けたいと思う。


何一つ甘えずにいることなんてできないけど、少なくともそんなに無理せずにやめられる甘えはできるだけしないでおきたい。でないと、沙奈子に対して『ここはなるべく甘えずに頑張ろう』って言いたい時に言えなくなってしまうと思うから。


まったく甘えないでいられるとは思わなくても、いつも甘えてばかりでもいられないはずだからね。


だからそういう、『甘えていい時』と『甘えられない時』のメリハリが大事なんじゃないかなって気がする。


結人ゆうとくんの場合は、僕たちに対して生意気な態度をとるっていう甘えは大目に見るけど、だからって自分の境遇を理由に誰かを攻撃したり傷付けたりっていう甘えは許さない。っていう感じかな。


そうだ。彼がとても辛い境遇にいたのは分かってるしそれについては同情もしたいけど、でもそれを、誰かを傷付けるための言い訳にするのは違うと思うんだ。


そしてそれは、沙奈子や、玲那や、千早ちはやちゃんや、波多野さんについても当てはまる。自分の辛い経験を理由に何をしても許されるわけじゃない。


特に、玲那はそのことをよく分かってる。分かってるから、自分の裁判の時にも無罪主張しなかったんだ。あれだけの酷い目に遭わされてきたからって、それを理由に人を包丁で刺していいわけじゃない。っていうのをあの子は理解してる。


僕の、自慢の娘だ。


でもそれ自体、あの子が僕に対して甘えたい気分の時にはそれを受け止めるようにしてきたことが上手く作用してるんじゃないかなって思うんだ。


甘えていい時には甘えられるからこそ、甘えちゃいけない時には甘えずにいられるっていうか。


人間は常に気を張って生きることはできないと思う。だから僕は、結人くんに対しても『何一つ甘えることは許さない』なんてことは求めないでおこうと思ってる。


だいたい、そんなことを彼に要求できるほど僕は立派な人間じゃない。


他人に対してやたら厳しい人で、一見、自分にも厳しくしてそうに見えるって、たぶん、そういう自分の考え方を他人にも押し付けるって形で『甘えて』るんじゃないかな。それでバランスを取ってる気がする。



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