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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百四十 結人編 「無意識にそうしてたのと」

七月十一日。水曜日。


もし、そこまで時間をかけても彼に信頼してもらえなかったら?。


その時は、僕には彼を受け止められるだけの器がなかったんだというだけなんだと思う。僕の力では無理だったということなんだろうな。


だからって見捨てるわけじゃないけど、他の誰かに協力を仰ぐっていう形にはなるんじゃないかな。


ここでもし僕が本当に『善人』なら、結人くんにだけそういう対応をするんじゃなくて、千早ちはやちゃんのお母さんとかお姉さんとか、波多野さんのご両親とか、田上たのうえさんのご家族とか、館雀かんざくさんに対しても同じことができる筈だと思う。だけど僕にはそれができない。ということは、僕は決して『善人』ではないということだと思う。『自分には無理』と言い訳して選別してるんだから。


僕はそれを『善』だとは思わない。


『そんなの厳しすぎる』と言う人もいるかもしれない。だけど、それじゃあ、『厳しくする方がいい』という話と辻褄が合わない。他人には厳しくするけど自分には甘くしてほしいなんて、それこそ『甘え』だと思う。


『甘えるのが悪い』と言ってるんじゃないんだ。『自分が甘えたいのなら他人が甘えるのを許さないのはおかしいんじゃないかな』って言いたいだけなんだ。


僕も甘えたい時はある。だから沙奈子や玲那や千早ちゃんや結人くんがつい甘えてしまうことに対して『そんなの絶対許さない』とは言いたくないだけなんだ。


『じゃあ、他にどういう解決方法があるのかな』っていうのを一緒に考えたいだけなんだ。


それで結人くんが僕を信頼してくれるという保証もないのは分かってる。だけど、少なくとも僕自身が、その程度のことも考えない大人なんて信頼できないと思ってるんだから、僕自身が『信頼できない大人』でいたくない。


沙奈子の時には意識してそうしてたわけじゃないけど、今から考えてみればそうだったのが分かるんだ。


そして、僕がそうやって『甘えるな』っていうのを押し付けないから結人くんがここで夕食を食べてくれるんだっていうのも分かるんだ。


甘えることを許されずに、ただ暴力で支配されてきた彼に、『ちょっとくらい甘えてもいいんだよ』って、『信頼できない大人に対して生意気な態度をとるくらいの甘えなら認めるよ』って、態度で示したいんだ。


『そんなことしたらつけあがるに決まってる』って言う人もいるだろうけど、実際に間近で結人くんを見てない人がそんなこと言ったって気にしない。僕が自分の目で見て肌で感じてそこは判断する。


沙奈子の時に、無意識にそうしてたのと同じに。



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