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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百三十九 結人編 「僕が僕自身を」

七月十日。火曜日。


僕たちは平穏な毎日に戻れたけど、ニュースでは連日、大雨の被害のことが報じられてた。大変な被害に息苦しささえ感じる。特に子供が犠牲になった話については、本当にやるせない。


沙奈子を見て余計にそう思う。


テレビのニュースを見る沙奈子の表情も、悲しげだった。だけどこの子がこんな表情をできるようになったのも、僕のところに来てしばらく経ってからだったと思う。最初の頃はそれこそ、ニュースで大変な事件や災害について流れてても、眉一つ動かさなかった気がする。


この子に元々そういう、他人の苦痛に共感できる素養があったとしても、少なくともここに来たばかりの頃にはそれは目覚めてなかったと思うんだ。自分が苦しめられないっていうのを実感して認められるようになってからなんじゃないかな。


だからこの子自身、いつだって無条件に優しい良い子でいられる訳じゃないんだ。そうなれる心の余裕があってこそのものだって気もする。


結人ゆうとくんにそれができないのは、今はまだ、それだけの心の余裕がないってことなんだろうな。


鷲崎わしざきさんみたいにいい人に保護されてて余裕がないとか甘えてる』


そんな風に言う人もいるかもしれないけど、僕はそれは違うと思ってる。鷲崎さんをいい人だと思えるのは、『実の母親に殺されそうになった経験のない僕の個人的な主観』であって、決して結人くん自身の感覚じゃないんだ。結人くんはまだそこまで他人を信じることができないんだろうなって思うんだ。


彼に信じてもらえないのは大人の側の責任であって彼の所為じゃない。だから僕は、今は彼に信じてもらえるための実績作りをする時期だと思ってる。何年かかるかは分からないけど、それは彼の心の傷の深さにもよるだろうから、僕の方で軽々しく判断することはできない。『僕たちを信じろ』と彼に強要すればそれは逆に不信感を与えることにしかならないはずなんだ。


信頼を得るには時間が必要なんだ。そしてそれがないと、決して僕たちの言葉は彼には届かない。


でも、結人くんは僕たちの前から逃げようとしてないから、たとえ時間はかかってもいつかはっていう予感もあるんだ。


慌てちゃいけない。焦っちゃいけない。インスタントに結果を求めちゃいけない。だって、他ならない僕自身が、そんな人のこと、信頼できないんだから。自分が信頼できないような人に自分がなってて、それで彼に信頼してもらおうなんてムシが良すぎる。


最低でも、僕が僕自身を信頼できると思えるようになる時間くらいは掛けなきゃいけないと思ってるんだ。



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