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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百三十六 結人編 「本心では大切に」

七月七日。土曜日。水曜日から降り続いた雨は、朝には少しマシになってた。


と思ったら、昼前からまた強くなってきた。


「今日はもう無理しない方がいいね」


「残念だけどね」


「そうするのがいいな」


玲那の提案で、今日の『家族水入らず』は中止ということになった。それぞれ、状況の推移を見守りながら待機ってことで。


沙奈子も残念そうだけど、「うん」と頷いてくれた。


だからビデオ通話は、山仁やまひとさんのところと鷲崎わしざきさんのところも合わせて繋ぎっぱなしにして、用心する。しかも玲那の方は、秋嶋あきしまさんたちとも連絡を取り合ってるようだ。


昨日は近くの河が氾濫危険水位を超えたっていう情報もあったけど、幸い、実際に氾濫することもなく何とか今は水防団体機水位まで下がったって。


だけど、他の県では大変な土砂災害が起こったっていうニュースが。


みんなして「うわ~…」っていう声しか漏れなかった。


僕たちのような家族が、あの土砂に飲み込まれたかもしれないと思うと、胸が締め付けられる。


かつての僕なら感じることのなかったものだ。だけど今は、沙奈子や、絵里奈や、玲那や、みんなが巻き込まれてたらって形で想像すると、感じられてしまうんだ。


僕は、この変化をむしろありがたく思ってる。以前の、災害で人が亡くなっても何とも思わなかった自分に戻りたいとは思わない。


他人のそういうのにいちいち感情を動かされることを煩わしいと思う人もいるかもしれない。そんな風に感じるのを『偽善』と嘲笑う人もいるかもしれない。だけど僕は、自分に置き換えてみたらそんな風になってしまっただけなんだ。


そうするのが正しいとか、人間らしいとか、そういうのを考えてのことじゃない。


それにきっと、『そう感じるのが正しいから』なんていう理由じゃ、僕はこうはなれなかった。あくまで、沙奈子が、絵里奈が、玲那が大事だからっていうだけなんだ。僕の家族がそれに巻き込まれたらって想像したらというだけの話なんだ。


そして、これがたぶん、結人ゆうとくんにも必要なことなんだと思う。彼がもし、こういう風に考えることができるようになったら、大きく状況が変わる気がする。


『道徳』に頼らなくても、他人がどんな風に苦しんだりするかっていうのが分かるようになると思う。


そうなるまでにはきっとまだ時間がかかると思うけど、決して不可能なことじゃない。


だって彼は、本人はまだ自覚はしてないかもしれなくても、ちゃんと鷲崎わしざきさんのことを本心では大切に思ってるって感じるんだ。



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