表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
723/2601

七百二十三 結人編 「自省するのを」

六月二十四日。日曜日。昨日の雨が嘘のように今日は晴れ上がった。日差しも強くて暑くなりそうだ。


地震については、特に被害が大きかった辺りでは今も大変らしいし亡くなった人もいて辛いだろうなと感じてしまう。その一方で、僕たちの周りでは直接の被害はほとんどなかったことで、すっかり普段通りの様子に戻っていた。


それでいいんだろうかとつい思ってしまうのは、たぶん、本当は他人の痛みとか苦しみとかに無関心な僕自身に対する後ろめたさがそれを思わせるんだろうなっていう印象もあるんだ。


自分が決して『善人』でも『聖人』でも『良い人』でもないことを、僕は忘れちゃいけないと思ってる。


近頃は、自分に厳しくすることを『自虐的』だとか言って馬鹿にする風潮があるあるらしいけど、僕はそれは危険だと感じてる。潜在的に危険を抱えてるタイプの人間はむしろとことん自省して自重して自分を抑え付けないといけないんじゃないかな。


同じようなことを、星谷ひかりたにさんも言ってた。


「私は、かつて自分こそが正義だと思っていました。自分こそが正しく、自分の思うことこそが真理だと、それにそぐわないものは全て『悪』だと断じてきました。しかしそれは私自身の『無自覚な悪意』でしかなかったと今では思います。私はそれで、何人もの人を傷付けてしまったと思うのです。


私が今、皆さんに対して協力的なのは、ある意味では『贖罪』でもあるんです。そしていずれは社会に貢献することで、愚かだったかつての私を購わなければと思っています。


私の本質は『悪』であると感じます。だからこそそれを意識的に断じ、『私は決して立派な人間ではない』と自らに言い聞かせないといけないと思うんです」


あの星谷さんですら、自分の中に『悪』があると感じてるんだなと驚くと同時に、だからこそ僕は彼女のことは信じていいんだろうなって気がするんだ。自分は間違ったことはしない、自分は正しい、自分は絶対だと考える人ほど僕は信じられない。そういう人は、もし自分が間違ったことをしても認めようとしないから。僕の両親がまさにそれだったから。


それどころか、たぶん、兄もそうだったんだろうな。あの両親によく似て、兄も、『自分は間違ったことはしていない』と思い込んでる人だったっていうのが今なら分かる。


きっと、沙奈子に対してした仕打ちも、悪いことだなんて思ってないんじゃないかな。


僕も、あの両親に育てられたわけだから、きっとそういう部分を受け継いでると思うんだ。そんな僕が『自分は正しい』だなんて思い込んだら、何をしでかすか分からない。


それが怖いから、僕は自省するのを忘れたくないんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ