七百二十二 結人編 「上手くハマれば」
六月二十三日。土曜日。昨日はあんなに暑かったのに、今日はまた朝から雨になった。梅雨だから当然なのかもしれないけど、それ以前から雨が多かったから、今年は水不足の心配はないのかな。ただその分、野菜とかの出来に影響しそうだとも思ってしまう。
それでも、週に一度の家族が揃う日だから、しっかりと出掛ける。
「気を付けてくださいね。先輩」
鷲崎さんがわざわざ傘をさして、僕たちの部屋の前で見送ってくれた。玲那の差し金だ。僕が『今から行くね』とビデオ通話で言ったから、すぐさま『お父さんと沙奈子ちゃんが今から出るよ』って。
先週も、沙奈子と星谷さんと千早ちゃん合同の誕生日パーティーに出る時に見送ってくれた。
「もしよかったら鷲崎さんも」
と誘ったけど、
「結人が行くわけないですから、今回は遠慮しておきます。あの子を放っておけませんし」
って断られた。
僕たちのことも大切だけど、彼女にとってはやっぱり結人くんが一番なんだなって思った。そういう彼女だから結人くんも一緒にいられるんだろうな。
「いつか結人くんもこられたらいいね」
僕の言葉に、鷲崎さんは嬉しそうに「はい」って応えてくれた。
これは、僕自身の正直な気持ちでもある。『鮫島結人』が夢の中に出てきた時にはとても受け止められそうになかったのに、今、『鯨井結人』くんと実際に関わってみた実感だ。
彼とはこれから長く関わっていくことになるんだろうなっていう予感があるんだ。
それが、夢で見たように沙奈子のパートナーっていう形でものかはまだ分からないけど、そういうことも有り得るなっていう予感もあったりする。
もちろん、それを選ぶか選ばないかは沙奈子自身が決めることだから僕がどうこう言うつもりはないけど、あの子がもし結人くんを選ぶようなことがあったとしても、うろたえないでいられるように今から心構えは作っておきたい。
なんて、ついこの前までは大希くんとならとか思ってたのに、我ながらすごい変わりようだなって思う。
でも、正直、星谷さんの大希くんへの想いの強さには、大希くんのことをただの友達以上にはまったく思ってなさそうな沙奈子じゃ到底太刀打ちできそうにないっていうのも感じるんだよなあ。
だから結人くんに乗り換えるっていうわけでもないんだけど、不思議と沙奈子と結人くんの組み合わせには、違和感も覚えないんだ。二人はよく似てるから、ある意味では、上手くハマればすごくお似合いだっていう気もする。




