七百二十一 結人編 「手紙が時々」
六月二十二日。金曜日。今日は朝からすごく天気が良くて暑かった。
沙奈子の学校でプールも始まったけど、昨日までは変に涼しかったからプールなんか入ると寒かっただろうな。その点で言えば、暑くなってくれて良かった。
でも、
「暑かったからまだ良かったけど、プールの水はめっちゃ冷たかった!」
沙奈子を迎えに行った時、いつものように出迎えてくれた千早ちゃんが、沙奈子の水着が入ったバッグを手渡してくれながらそんなことを。
そうか。昨日まで涼しくて今日やっと暑くなったところだったから、プールの水まではまだ温まってなかったのか。
「そうなんだ。寒くなかった?」
聞き返す僕に千早ちゃんは、
「ちょっと寒かったけど、でもすぐに慣れたよ」
だって。続けて大希くんも、
「うん、大丈夫だった」
って。それに同意するみたいに沙奈子も黙って頷いてた。
「そうか、良かった」
僕も沙奈子たちの様子にホッとする。
それに加えて結人くんのことが気になったから聞いてみた。
「結人くんはどうだった?」
すると千早ちゃんが、
「あ~、鯨井ね。相変わらずっちゃ相変わらずかな~。ファンの女子がキャアキャア言ってるの無視してるし」
とのことだった。
そういう意味でも相変わらずということならそれも安心かな。特に変わった様子がなければそれでいいと思う。変わった様子がないということは、たぶんそれは落ち着いてるってことだと思うから。
アパートの方でも、週末に夕食を一緒に食べるけど、その時の様子にも大きな変化はない。
鷲崎さんとの関係でも、何か変化があったという印象もない。良い方に変わっていないという意味でもあるけど、悪い方にも変わってないならそれでいいんだ。
僕は急がない。慌てない。ゆっくりと彼の様子を見極めながら行こうと思う。
沙奈子の時にも学んだんだ。焦っちゃいけないって。自分の都合に従って、自分の型に押し込めようとすると失敗するって。
結人くんは沙奈子にとても似てる。だから沙奈子との経験が役に立つ。
鷲崎さんも言ってた。
「こっちに来てから結人ってば、なんか表情が柔らかくなった気がします。まあ、そんな気がするだけかもですけど」
ずっと一緒にいた鷲崎さんがそう言うのなら、たぶんそれは気のせいじゃないと思う。いろいろ状況が変わって最初は戸惑って、でもだんだんそれにも慣れてきて、牙を剥かなきゃいけない相手がいないってことが当たり前になりつつあるってことなんじゃないかな。
あと、それとは直接関係ないかもしれないけど、結人くんのことで鷲崎さんはこうも言ってた。
「結人宛の手紙が時々届くんです。明らかに女の子の字で書かれた手紙が」




