七百二十 結人編 「これで世界が終わる」
六月二十一日。木曜日。すっきり快晴とはいかないけど雨も上がって、この近所では目立った土砂災害もなかったようだ。
地震についても、昨日あたりに『また大きな地震が来る』みたいな噂も流れていたのも結局そんなこともなくて、ただのよくある噂だろうとは思ってたけど外れてくれてホッとした。
ただ、地震そのものはいつだって起こる可能性があるのは事実だと思う。『いつ起こる』なんていう話はただのデマだとしても、起こる可能性自体は常にあるっていうのも忘れちゃいけないなと思った。
それに今回の地震は、さすがにすぐ隣とも言える場所が震源だっただけに、結構、周りの人の知り合いや親戚が被害に遭ったとか、避難してるとかの話も、会社の方でも同僚たちがしてたのを耳にした。
と同時に、阪神淡路の時には僕はまだ子供で、テレビのニュースで横倒しになった高速道路とかを見て、『怖い』っていうのと同時に、奇妙な高揚感があったのを思い出す。
そうだ。あの時の僕は、
『やった!、これで世界が終わる!』
みたいなことを期待してた気もするんだ。
『こんな嫌な世界なんて、早くぶっ壊れて終わってしまえ!』
なんて、心のどこかで願ってたんだろうな。
こんな僕が、他人に『良い人』であることを期待するなんて、ムシが良すぎるってすごく思う。他でもない僕自身が『良い人』じゃないのに。
だから僕は、他人が自分の思い通りになってくれなくても腹を立てるのはよそうと思えるんだ。僕が他人の思い通りにはできないんだから、他人にそれを期待するのはおかしいって。
そんな風に思えると、無駄に腹も立てなくて済むのかな。
こうやって大きな天災とかは、何も悪いことしてなくても降りかかってくるんだ。事故とかに巻き込まれるのだってそうだと思う。なのにその上、人間同士でいがみ合うなんて、本当にくだらないって思えるようになった。自分の考え方ひとつで楽になれるものをわざわざ悪い方に考えていちいちイライラしたりなんて、もったいなさ過ぎる。
そうだ。他人に腹を立てないようにしたり、揉め事を起こさないようにするというのは、決して『綺麗事』じゃないんだ。僕自身がそんなことでイライラして沙奈子や絵里奈や玲那に当たり散らしたりしたくないからそうしないようにっていうだけなんだ。『誰かのため』じゃない。他でもない僕自身のためなんだ。
諺とか格言を見ると、昔からそんな風に感じてた人もいたみたいなのに、何故かそれがちゃんと理解されてないっていう気がする。上手く伝わってない気がするんだ。
僕はそれを、きちんと沙奈子に伝えていきたいと思う。何よりそうすることが僕自身のためだから。




