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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百十六 結人編 「自分に正直になることで」

六月十七日。日曜日。少し雲はあるものの、基本的に天気はいいようだ。




昨日の誕生日パーティーはとても楽しかった。


旅館が大きなケーキを用意してくれて、沙奈子と千早ちはやちゃんで一緒に吹き消した。


「お誕生日、おめでとう♡」


みんなが笑顔でそう言ってくれる。


一見、無表情にも見える沙奈子の顔も穏やかになってるのが分かった。彼女なりに喜んでくれてるんだっていうのが僕には分かる。


いや、僕だけじゃなくてここにいるみんなは分かってくれてるんだ。沙奈子にもちゃんと感情があるってことを。


その当たり前のことを見落としがちになるけど、でも、だから僕はみんなことを大切に思えるんだ。


ほんの二年前までは、こんな誕生日パーティーをすること自体が想像できなかった沙奈子のために、みんなが祝ってくれて、そして沙奈子もちゃんとそれを喜んでる。


そういうのを見る度に、僕は自分の選択が正しかったんだろうな。と思う。意識して選んだというよりはただ状況に流されただけなのは事実でも、結果的にはそれが正解だったというだけでも嬉しい。


僕たちは、世間の言う<普通>とは違ってると思う。気に入らないことがあれば陰口を叩き、自分の考えと合わないと思えば容赦なく攻撃し、やられたらやり返しっていうのが<普通>だと思ってる人たちとは間違いなく違ってる。


でも、そのおかげで僕たちはこうして穏やかな時間を過ごすことができてる。『そうするのが当たり前』という思い込みを見直すことが大事なんだっていうのをすごく感じる。『そうするしかない』っていう思い込みが取り返しのつかない事態を招いたりするのも事実のはずなんだ。


玲那が、実のお父さんを刺してしまった時みたいに。


無責任な他人は、それを『正当な復讐』ともてはやすかもしれない。だけどあの子がそれをしてその後に起こったことについては、無責任な他人は何も責任を負ってくれない。『復讐して当たり前』という思い込みを、『そうするしかない』という思い込みを、ちゃんと『それで本当にいいの?』と言ってくれる人が必要なんだなって思う。そしてそういうのを冷静に考える自分が必要なんだ。


もしそうじゃなかったら、僕たちは今、ここにこうしていなかったと思う。


そういう意味では、僕たちにとって『先輩』である山仁やまひとさんがどれほどの苦しみや痛みを押さえ付けて僕たちを気遣ってくれてるのかっていうのも痛いくらいに感じるんだ。


山仁さんは決して聖人でもなければ善人でもない。死刑囚だった父親の気質を、本質の部分では受け継いでしまってる。だけど、その『本質』の部分が訴えかけてくる欲求や敢えて『そうじゃない』と抑えることで、今の幸せがあるんだな。


自分に正直になることで不幸になる場合だってあるっていうのが、すごく分かる気がする。



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