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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百十五 結人編 「次元の違うところに」

六月十六日。土曜日。昨日の雨が嘘のように今日はすごく良い天気だった。


あの旅館で、星谷ひかりたにさんと千早ちはやちゃんと沙奈子三人一緒の誕生日パーティーがある。昨日の雨じゃ行くのも大変だったけど、晴れてくれてよかった。


「お~!、やっぱこの落ち着いた雰囲気もいいな~」


旅館に着くなり、玲那がそう声を上げる。スマホを使ってしゃべるのにもすっかり慣れて、元々信じられないスピードでスマホに入力してたのがさらに磨きがかかってる気がする。それでも、普通に自分の口でそのまま喋るのに比べれば、どうしてもタイムラグがあるけどね。


そのことについては、僕たちの方も慣れた。玲那が話すのを待つのにも。


だけど星谷ひかりたにさんはまだこれでも納得できないみたいだ。


「口の動きそのものを音声に変換する装置の完成を急ぎたいのですが、技術的にクリアしないといけない課題が多く、まだお時間を頂きたいと思います。すいません」


なんて謝られると、こっちが恐縮してしまう。


「いえいえ、こっちは完全におんぶにだっこなんですから、僕たちの方こそ申し訳なくて…!」


とは言うものの、


「いえ、それについては大丈夫です。研究の段階で得られたデータをフィードバックし、ちゃんと利益を得られる商品開発にも役立てていますので、こちらとしても利益が生じているのです。なにしろ、私が出したアイデアがまた特許を取りまして、海外の企業からそれを使いたいとオファーがありました」


って、サラッと何気ない感じで彼女は言うけど、それって実際にはすごいことだよね…!?。


「ピカちゃ~ん、ひょっとしてまた儲かっちゃってる~?」


ニヤニヤ笑いながら聞いてくる玲那に対しても、


「はい。経費や税金を差し引いた実収入だけでも去年の二倍になりました。今回の契約が締結されれば、さらにその数倍になる可能性があるでしょう」


……もはや何を言ってるのかも理解できない気がする。


「それでもぜんぜん普通にしてるのがピカのすごいところだよな」


波多野さんが嬉しそうにそう言った。


「そうそう、私たち庶民とは次元の違うところにいるはずなのにね~」


というのは田上たのうえさん。


本当に二人の言う通りだと思う。本来ならまったく僕たちとは接点がなかったはずの星谷さんがこうして一緒にいるというのがもはや奇跡なんじゃないだろうか。


だけど当の星谷さん自身は、


「こうやって皆さんを招待できるのですからそれは確かに助かりますね」


だって。金銭感覚もまるで別次元だ。


「だけどこんなお世話になりっぱなしでいいんですか?」


絵里奈が恐縮しながら問い掛ける。でも、星谷さんは平然と応えた。


「きちんとリターンはいただいてますので、問題ありません」


確かに、立て替えてもらった弁護士費用とかについては今も返済中だ。そういうところはきっちりしてる。ただ気前が良いっていうだけじゃないんだよね。



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