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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百十二 結人編 「実は臆病で怖いから」

六月十三日。水曜日。今日も天気はいい。




それと今日は、星谷ひかりたにさんの誕生日か。


沙奈子を迎えに行った時に「誕生日おめでとうございます」とは言わせてもらったけど、今度の土曜日に改めて、星谷さんと千早ちはやちゃんと、先月、例の『事件』があったことで先延ばしになってた沙奈子のと合同の誕生日パーティーを、あの旅館ですることになる。


当日には僕たち家族だけでお祝いできたから沙奈子もそれで満足してくれてたけど、こうやってまとめてでもみんなでお祝いしてもらえるのも嬉しそうだ。




沙奈子は相変わらず、他人にも分かりやすい表情を見せることができない。どうやらすっかりその状態で定着してしまったみたいだ。


事件を起こしてしまった玲那を罵る世間を知ってしまって、しかもそれを『正義』と称することにショックを受けて、


『これが正義なら、私、正義なんてキライ。大キライ…!。正義なんて大っキライ……!!』


っていう、この子の悲痛な叫びがいまだに耳に残ってる。


『正義』を盾にすれば何をやっても、何を言っても許されるという世の中の風潮を感じ取ってしまったことで、この子は、世の中に対しては心を閉ざしてしまった。ほんの身近な、僕たち家族を含んだ僅かな人たちだけには読み取れる表情を見せることはできても、きっとこの子のことをよく知らない人は不愛想で無表情な可愛げのない子供に見えるんだろうなとすごく思う。


そういう意味では、世間一般の言う、『可愛くて子供らしくて聞き分けのいい良い子』ではまったくない沙奈子。


うん。やっぱり結人ゆうとくんに似てるな。


僕が沙奈子に感じてるものと、結人くんから受けるものとは似てるんだ。


他人がどう思うかは関係ない。僕がそう感じるからそうなんだ。


結人くんにとてもよく似た、僕の夢の中に出てきた『鮫島結人』。あの夢の中で『鮫島結人』は沙奈子と結婚してたみたいで、あの頃の僕はそれにすごく戸惑いもしたけど、実際に結人くんと接してる限りは、もし彼が乱暴な振る舞いをしたとしても、その背景に何があるのかがよく分かるから、彼のことを得体のしれない怪物のように感じなくて済んでるっていうのもある気がする。


どんなに狂暴な悪童に見えたって、彼も結局はただの子供なんだ。沙奈子と大して変わらない。


ううん。むしろ、ああやって虚勢を張らずにいられないところが、逆に弱さを感じる。


自分を強そうに見せようとするのは、本当はそうしないと怖いからなんじゃないかって今では思えるようになった。


実は臆病で怖いから、虚勢を張って自分を強そうに見せずにいられなんだろうなってね。



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