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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百十一 結人編 「きっと逃げ出して」

六月十二日。火曜日。どうやらまあまあ天気はいいようだ。




今日も特別何もない一日だった。だけどそれはまた、平穏な一日だったということでもある。


結人ゆうとくんの方は相変わらずだと、夕方、星谷ひかりたにさんから聞いた。


千早ちはやの話でも、学校で目立ったことは起こっていないそうです。相変わらず、ファンクラブなるものが彼の周りで賑々しく動いているようですが、彼はあくまでそれを無視する方向でいるようですね」


ファンクラブねえ。


僕にはまったく縁のないものだったし、周りにそんなものがあったという話も、芸能人のそれを除けば噂くらいでしか聞いたことがない。それも、本当に『何となくそうらしい』っていう曖昧なものだった。


だけど結人くんのそれは、なんでも会員番号まで発行されて会員証まで作られてる本格的なものだって。彼のファンの女の子の一人がなにやらそういうのを作るのが得意で、カードをパウチする機械も家にあって作ってるんだとか。


ただそれ自体が、部活動的な楽しみ方みたいとも言ってた。そういう意味で楽しめるのなら、それに越したことはないのかもしれない。


結人くんにとっては少し迷惑な話かもしれないけどね。


もっとも、結人くん自身はそういうのも無視して勝手にさせてるってのもあるのかな。それならそれでいいと思う。


しかもそれ自体が、結人くんの器の大きさみたいなものを表してる気もする。


彼としては面倒臭いから無視してるだけのつもりだとしても、本当に許せないと思ってるのならそんな風に放っておくこともできないと思うんだ。たとえ黙認という形であったとしてもそれを許容できるだけの器を彼は持ってるんじゃないかな。


僕はそう思ってる。


もしそれが、単なる僕の希望的観測だったとしてもいい。


元より人生は先のことなんて分からない。どの選択がどういう結果になるかなんて、実際に結果が出てからじゃないと良かったのかどうか判断も付かない。


それに何より、出た結果をどう捉えるかっていう形でも『良い、悪い』は変わってしまう。


本当は独りで気楽に生きたかったと思えば今の状況はきっと苦痛に感じられるだろうな。沙奈子がいて、絵里奈と結婚して、玲那を娘に迎えて、星谷ひかりたにさんや山仁やまひとさん達とこんなに関わるのも、逆に辛かったかもしれない。


みんな優しくてあたたかな人達だけど、こうやって他人と深く関わることが苦痛な人にとっては大変だとも思うんだ。


しかもそれって、同じ人でもその時々によって変わってしまう。


昔の僕だと、いきなりこういう状況に放り込まれたら、きっと逃げ出していたと思うから。



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