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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百八 結人編 「謎の自信」

六月九日。土曜日。今日は割と天気がいいのかな。




来週はあの旅館で、星谷ひかりたにさんと千早ちはやちゃんと沙奈子の合同の誕生日パーティーがある。でも今日のところはいつもの人形ギャラリーだ。僕もすっかり慣れてすごく落ち着く。


「来週は沙奈子ちゃんの誕生パーティーだね」


玲那が嬉しそうにニコニコ笑いながら言ってくる。


「うん。あんな事件が無ければちゃんと先月、やってあげられてたんだけどな」


僕がそう応えると、玲那は苦笑いになって、


「でもまあ、こればっかりはね。私達は直接の被害者ってわけでもないから気にしなくてもよかったって言ったらそうだったんだけどさ」


だって。


確かにまあ、それはそうだ。あくまで何となくそういう気分になれなかったから延期しただけで、そうしなくちゃならなかった理由がある訳でもない。ただあの状況だとやっぱり無理にパーティをしてたとしてもきっと楽しめなかっただろうな。だから延期した判断自体は間違ってなかったと思う。


沙奈子も納得してくれてたし。


僕たちは決して聖人じゃないけど、だからって自分たちのすぐ近くの人が事件に巻き込まれたのに全く平然としていたいわけでもない。平然としようと思えばできるとしても、そんな自分を認めたいわけじゃない。


自分がおかしいということもちゃんと認めていたいんだ。


それと同時に、お祝いもしてあげたいからね。家族だけでささやかには当日そうしたけどさ。


人間ってホントに矛盾したたくさんのものを抱えて生きてると思う。でもそれでこそ人間なんだろうなっていう実感もある。僕はそのことを忘れたくない。


だって、その矛盾を受け入れたからこそ今の僕があるんだし。


何もかも投げ出して沙奈子も見捨てて一人気ままに生きたいという自分の気持ちと、親に見捨てられ大人に虐げられてきたあの子を見捨てられないっていう気持ちと、矛盾した両方を抱えたまま沙奈子と向き合ってきたおかげでだって実感があるんだ。


結人ゆうとくんのことも心配だったしね」


「確かに。あの時は、被害者の女の子がカナのおかげで守られたっていうのもあるけど、同時に結人くんも守られたっていうのもあるかもね」


「うん。さすがに彼でも、大人相手に直接掴みかかって無事でいられたとは思えないしさ。自動車に飛び込んでも無事だったなんて、ただ運が良かっただけとしか思えないよ」


「だよね~。そういう時って、本人は謎の自信を持ってて『自分は大丈夫!』って思ってたりするかもだけど、そんなのぜんぜん、意味がないからね~」


玲那の言うことももっともだと思う。無茶なことをする時って、『自分は大丈夫』っていう、実際には何の根拠もないのに自信があったりする状態だったりするんだよね。



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