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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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七百六 結人編 「良いことも悪いことも」

六月七日。木曜日。火曜日から降り出した雨が、僕が会社に着く頃にようやくやんだ。




沙奈子が来てから約二年。本当に訳が分からないくらいに濃密な二年だったと思う。そして、それが僕をすっかり変えてしまった。


いや、本質の部分は今でも変わってないとは思う。ただ、それを補うためにできることがいろいろ身に付いただけなんだ。


人間の本質っていうのはそうそう変わらないと僕も思う。そういう意味では、『悪い奴は一生悪いまま』っていう考え方も分からないわけじゃない。僕たちがいくら頑張ってみたところで、結人ゆうとくんの本質そのものまでは変わらないんだろうな。


だけどそれって、『実は結人くん自身に優しい部分もあるという本質も変わらない』という意味でもあるんじゃないかな。だとしたら、僕はその部分こそを活かしたいと思うんだ。


なんて、こんなことを考えるっていうのが、僕の大きく変わった部分だろうな。


そうやって自分が実際に変わった部分があるんだから、自分以外の他人は『変われない』と決めつけるのはおかしいと思う。そうやって決め付けるのは、きっと、自分が変わったという実感がないからなんじゃないかって気もする。


学校での結人くんの様子も、大きく変わったという印象はないけれど、最初に受けてたそれに比べれば、別に何かトラブルを起こすわけでもないそうだ。先生に言われたことでも、不服そうに無愛想な態度をとってても、だからといって攻撃的に噛み付いてくるわけでもない。『生意気な態度をとってる』ってことを別にすれば、実は意外と大人しくて真面目な子だったりするんだ。


週末に夕食を一緒に食べてる時にも感じる。彼は、出された料理はしっかり綺麗に食べ切って、文句も言わない。まあこれは、野菜嫌いの彼に、あまり野菜を出さないようにしてるからというのもあるとは思うけどね。


これを『甘やかしてる』って感じる人もいるだろうなっていうのは分かってる。だけどそれは、彼のことをこうして実際に傍でよく見てるわけじゃない人が言ってることだから、僕は気にしないでおこうと思う。それにそういう人は、自分では責任を取ってくれないから。


彼にもし何かをされれば僕たちはそれこそ迷惑を受けるし、場合によっては『被害』を被るかもしれない。けれど、それは僕達がそれを選んだ以上、良いことも悪いことも自分達に降りかかってくるっていうのを覚悟しないといけないって思えるようになった。良いことだけがあるなんて、そんなのは有り得ない。


玲那の時と同じだよ。僕はあの子を受け入れた。その結果、彼女が起こした事件に巻き込まれた。でもそれは、玲那と一緒にいるためには必要なことだったって今では思うんだ。



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