七百三 結人編 「それを向けられるのは」
六月四日。月曜日。今日も朝から天気が良くて、暑い。『暑くなりそう』じゃなくて、朝の時点でもう暑い。
今朝、沙奈子に今年のプール授業の参加・不参加についての書類を渡して、学校に持っていってもらうことにする。
僕が小学校の頃にはこんな書類出してたんだろうか。親に渡すようにと学校からもらった覚えもないから一律参加だったんだろうなとは思う。ただ、何らかの病気でプールには入らない方がいい子もいるだろうから、こういうのを確認するのは大事なんだろうな。
沙奈子は、体自体はとても健康で何の問題もないし、もちろん参加する。その為に水着の用意もした。五年生の時は、四年生の時に使ってた水着をそのままゼッケンだけ付け替えて使ってたんだけど、今年は試しに部屋で着てもらった時に少し窮屈そうだったから、新しいのを買ってきた。
四年の時と同じように、いつもの大型スーパーで。紺色の無地のセパレートタイプなら学校に時々業者が売りに来るものでなくてもいいから、申し訳ないけど学校で買うものよりは少し安いのにさせてもらう。でも同時に、あまり安すぎるのも避けたけどね。一番安い水着は明らかに布地が薄くていろいろこう、具合が悪そうだったから四年の時にも避けた覚えがある。
で、要らなくなった方の水着はと言うと、
「アッキーたちはめっちゃ欲しがりそうだけど、さすがにそれはね~」
とか玲那が言ってたから、迂闊に捨てるよりは厳重に保管しておいた方がいいかなと思ったりした。この辺りではさすがにそこまでの噂は耳にしてなくても、ゴミ袋を漁って持っていくような変質者も世の中に入ると聞くし、水着の二着くらいならそんなに邪魔にもならないし、押し入れにしまってある。
秋嶋さんたちは悪い人じゃないのは分かってても、沙奈子が使ってた水着をあげる気にはさすがになれない。
信じるとかそういうのとこれは別だと思う。申し訳ないけど。
玲那もその辺りはわきまえてくれてる。
僕は人間嫌いが極まってしまってるのか、その辺りの感覚も実はピンとこないんだ。どうして水着とか下着とかを欲しがるのかっていうのも。
「私や絵里奈がお父さんと一緒にいて安心できたのは、結局そこなんだよね。男の人がエロいこと考えちゃうのは仕方ないのかもだけど、それを向けられるのはヤなんだ。だけどお父さんは素でそういうのなかったからさ。
私はアッキーたちとは友達だけど、だからってエロい気持ちを向けられるのは気分良くないんだ。だけど、その点でもアッキーたちは気を遣ってくれてると思う。気を遣ってくれてるっていうのが分かるから友達でいられるんだ」
玲那の言うことも、分かる気がする。




