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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百九十八 結人編 「あの子を罵った連中のことは」

五月三十日。水曜日。今日は朝から雨。この辺りで梅雨入りはまだのはずなのに、今年は雨が多いなって気がする。これはあれかな。天候不順ってやつで野菜が値段が上がったりするのかな。家計を預かる者としては辛い話だ。


それはさておき、実際に起こりえることが僕にさえ想像できるのに、世の中の頭のいい人が想像できないはずがないと思う。だから、『復讐は認められない』んだと思うし、それでいいんだと僕も思うんだ。二次被害三次被害が出ないようにするためにもね。


専門家のはずの警察や検察でさえ冤罪を生み出すのに、素人が失敗も間違いも勘違いもしないなんて、ありえないよ。


玲那はそれが怖いんだ。あの時、周りにいた無関係な人を、ううん、あの時にそこにいた人の多くはまったく無関係ってわけじゃなくて、玲那の本当の両親がどんなに悪いことをしてたのか薄々気付いてたのにそれを見て見ぬふりして放っておいた親族が大半だったけど、それでも、本当にまったく無関係な人だっていたわけで、玲那が刺してしまった実のお父さんの応急処置をして命を救った人なんかは、それこそ完全にその辺りの事情を知らない人だったみたいなんだ。


もし、玲那が、自殺を図らずにいたら、そうやって憎い実の父親を助けようとする人をそのままにしてたかな。少なくとも玲那自身は、


「たぶん、その人のことも刺してたと思う……」


と言ってた。まったく事情を知らず、たまたま居合わせたっていうだけの人をね。そんな自分が怖くて、嫌で、許せなくて、あの子は甘んじて罰を受けることを望んだんだ。完全に無関係な人さえ巻き込んでたかもしれないっていう事実が、何よりあの子を苦しめた。


「復讐は何も生まないんじゃないよ……。復讐は次の復讐を生むんだ…、だからやっちゃいけない。私はそれを自分で確かめたんだよ……。自分でね……」


とも言ってた。


そうだ。確かに、その場では無関係な人を巻き添えにはしなかったかもしれない。だけどその後、事件が公になって玲那はまったく無関係な人から酷い攻撃を受けた。あの子の存在そのものを全否定するような酷い罵声を浴びた。僕はそれが許せなかった。もしそこで僕が、あの子に罵声を浴びせた連中に『復讐』していたら、やっぱり玲那の言うように『復讐が次の復讐を生んでた』んじゃないかな。


だから僕は、それを実行しなかったことを今では本当に良かったと思ってる。義理とはいえ、書類上だけとはいえ、僕の娘であるあの子を罵った連中のことは今でも許してないけど、でも『復讐』はしない。


もしそこで僕が復讐を実行してたら、今度は僕が『復讐の対象』になってたはずだから。



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