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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百九十四 結人編 「当事者の事情なんて」

五月二十六日。土曜日。今日も暑くなりそうだ。


だから涼むためにもいつもの人形ギャラリーに行く。こういうのは、鷲崎わしざきさんはともかく結人ゆうとくんはまったく興味なさそうだな。


そんなことも考えつつ、絵里奈や玲那と合流する。


ちなみに星谷ひかりたにさんたちは、今日はまたあの旅館に行ってるそうだ。楽しんできてもらえたらいいな。


「どうですか。結人くんの様子は」


絵里奈がそう聞いてくる。


「相変わらずって感じかな。でも、落ち着いてるようだからそれでいいと思う。アパートでも、何か迷惑になる行為をするとかってわけでもないし」


それに対しては玲那も、


「あ~、アッキーたちもそれは思ってるみたい。アパート前で顔を合わせても挨拶とかは一切ないけど、別に部屋で暴れたり騒がしくしたりっていうのもないから、アッキーたちにとっても拍子抜けしてる感じかも。もっとこう、行儀の悪い『クソガキ』だと思ってたって」


「ああ、確かにそうだね。行儀がいいとは決して言えないけど、かと言って何か特別なことをするわけでもないんだ。こちらからちょっかいを掛けない限りは基本的には大人しい子なんだろうな」


それは嘘偽りない実感だ。確かに愛想が悪くて分かりやすい『良い子』じゃないけど、目立った悪さもしない。結人くん自身がそういうのが苦手なんだって感じる。


「…なんか、昔の私にも似てるかな」


玲那がそんな風に言ったことにも、僕は何となく『そうかもしれない』って思った。


もちろん僕は昔の玲那を知らないけど、話を聞いてる限りでは沙奈子や今の結人くんにも通じる一面があったのも事実だと思うんだ。


でも玲那は、抑えて抑えて抑え続けてきたものが、実のお父さんの態度に触れて爆発してしまった。同じ危険性は沙奈子も持ってると思うし、そういう意味では結人くんが持ってるのもむしろ当然だと思う。


だけどそういうものを抱えてるからって爆発させていいわけじゃないっていうのは、玲那の時のことで本当に思い知った。復讐しようとすることでさらに不幸に陥れられることがあるっていうのを実感した。


他人からは、当事者の事情なんて見えない。だから自分が想像したストーリーに合わせて攻撃する。それは普段、復讐を肯定してる人達だって同じだ。そういうものなんだ。他人の言ってることを真に受けちゃいけないんだ。


誰かを傷付けようとするのは、それ自体が不幸を招くんだ。それで幸せになれることなんて、まずない。踏ん切りも区切りも付かない。それは、玲那自身がよく知ってる。彼女は本当に後悔してるし反省してる。そして、二度と同じことを繰り返さないって誓ってる。


結人くんにも、それを知ってもらいたいな。



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