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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百九十二 結人編 「そんな努力を」

五月二十四日。木曜日。昨日の雨はやんで、朝は割といい天気だった。


それはさておき、『家族が苦しむのに事件を起こす理由』については、正直、心当たりはある。自分にとって苦しんでも構わないような家族だったら気にならないだろうなっていうことでね。


だって、僕もそうだったから。僕の元々の家族も、いくら苦しんだって構わないって思える家族だったから。あの両親が苦しんだって、兄が苦しんだって、僕はちっとも気にならなかったと思う。それどころか、逆に積極的に苦しめてやりたかった気さえするんだ。


ただそれは、沙奈子のことを全く意識してなかった頃の話。今では絶対に嫌だ。沙奈子や、絵里奈や、玲那が苦しむのを見るなんてありえない。三人が苦しむくらいなら、僕が苦しんだ方がマシだ。


しかも今では、僕のせいで苦しんでほしくない人がさらに増えてしまった。みんなのことを思えば、僕は、事件なんて起こせない。


今回の容疑者は、そうじゃなかったんだろうな。波多野さんのお兄さんもそうだったけど、もしかしたら逆に苦しめてやりたいとか思ってたのかな。だとしたらどんな酷い事件でも起こせてしまうだろうな。


苦しんでもいい家族、苦しめてやりたい家族、そんな家族なんて悲しいよ。悲しすぎる。


僕の両親や兄のことを思うと、どうしてあの人たちはわざわざ『苦しんでもいい家族』『苦しめたやりたい家族』になろうとしたんだろうって気がする。何を思ってそんな家族になってしまったんだ。


せっかく生まれてきたのに、わざわざ自分で苦しむことになるような生き方をどうして選んでしまったんだ。


家族を大切にしないことで、自分も家族から大切にされないようになって、何がしたかったんだろう。


僕もその家族の一員だったはずなのに、一体、あの家族の中で僕はどうなろうとしてたのかが今ではもう分からない。と言うか、何も考えてなかったっていうのが本当のところだった気がする。その場その場の感情とかに流されるだけで、自分がどうなろうとか、どうなりたいとか、考えてなかった気がするんだ。


それがすごく怖い。


今回の容疑者も、波多野さんのお兄さんも、自分から不幸になりに行ってしまった。しかも家族さえ巻き添えにして。


これじゃそれこそ何のために生まれてきたんだか分からないよ。何がそんなに不満だったのか知らないけど、だったら自分でちゃんと幸せを掴むために努力しようよ。


って思うのは、それは僕が今、幸せだからなんだろうな。


沙奈子と一緒に暮らし始める前の僕も、そんな努力を全くしてなかったからね。人のことは言えないな。



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