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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百九十 結人編 「強引に押し付けてまで」

五月二十二日。火曜日。寒さが和らいだと思ったら今度はまた急に暑くなってきた。本当に極端な天気だな。


沙奈子が自分と似たような境遇にあったことに気付いたらしい結人ゆうとくんだけど、だからって何か態度に変化があったわけじゃない。相変わらず無愛想でよそよそしい様子なだけみたいだ。


でも、それでいい。彼みたいな性格の子が急に態度を変える方が不自然だと思うし。今まで以上に沙奈子を遠ざけて毛嫌いするような感じじゃなかったら大丈夫だと思う。


なんてことを考えながら沙奈子と一緒にアパートに帰ってくると、


「おかえりなさい!」


とまた鷲崎わしざきさんが出迎えてくれた。


朝はともかく、毎回毎回よくこう都合よく現れるなと思ってたら、どうやら玲那が連絡を取ってるらしい。


「今からお父さんと沙奈子ちゃん帰るよ」


って。道理で。


だけどどうしてそんなことをするのかと言ったら、自分がそれをできないから、鷲崎さんに代わりにやってもらいたいってことみたいだ。鷲崎さんは鷲崎さんで出迎えたいから嬉しいって。


それを絵里奈も知ってるっていうのが安心する。絵里奈に隠れてやってるってことになると後ろめたい気もするのが、ちゃんと知られてるっていうことでホントにただの『親しい人としての挨拶』ってことになってくれるから。


裏表のない鷲崎さんがそうしてるってことが、たぶん、結人くんにとっても重要な意味がある気がする。


鷲崎さんは、自分がそうするからって結人くんにまで無理にやらせようとはしない。あくまで自分がやりたいからしてるだけってだけだ。それがいい。


そもそも結人くんはこういうことができるタイプじゃないと思う。沙奈子と同じで。特に親しくなってホントに相手を限定するならできたとしても、それほど親しいわけでもない相手にはできない。そういう人に強要するのって僕は違うと思うんだ。他ならない僕自身がそんなこと強要されたくない。


そういったことを鷲崎さんはわきまえてくれてる気がする。だから結人くんも一緒にいられるんだろうな。


『挨拶はした方がいいよ』とは言うけれど、決して強要はしない。挨拶をするのはあくまで自分にとってそれが利になるからやった方がいいというだけで、強引に押し付けてまでやらせるほどのことじゃないと、鷲崎さん自身が思ってるみたいだ。


『私が挨拶したいんです。それだけです』


って感じか。


大学時代の僕はそれすら迷惑がってたから彼女のことを拒んでしまったけど、結人くんはこれまでずっと一緒に暮らしてこれたんだ。彼だって自覚してるかどうかは別として、彼女のことを認めてないわけじゃないと思うんだ。



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