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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百八十九 結人編 「適切な距離」

五月二十一日。月曜日。ようやくまた寒さが和らいできた気がする。


今日、沙奈子を迎えに行った時、星谷さんから聞かされた。


鯨井結人くじらいゆうとくんに、沙奈子さんの痣のことを気付かれたようですね」


って。


聞けば、休憩時間に沙奈子が結人くんにあまり人が来ない場所に呼び出されて、そこで結人くんが自分の足の指の間にある、沙奈子のそれと同じ痣を見せて、


「お前の首の後ろに、これと同じのがあるだろ?」


と聞くのを、千早ちはやちゃんと大希ひろきくんが見たらしい。二人は、もし何かあったら助けに入ろうとついて行ったんだって。でも実際にそこであったやり取りは、


「お前が叔父さんとこにいたのもそれかよ。お前、俺と同じだったんだな」


「……」


「でも、俺はお前らと友達ごっことかするつもりねーからな」


「……」


と、結人くんが何か納得したみたいに言うのを沙奈子が黙って頷くだけって話だった。


その時の沙奈子と結人くんの様子は二人とも落ち着いててなにか危険なことがある感じじゃなかったとも言ってたって。


「そうですか、そんなことが……」


それを聞いた僕も、自分でも不思議なくらい平然としてた。不安とかは何も感じなかった。たぶん、さっきあの子と顔を合わせた時に穏やかな表情してたからだろうな。もし沙奈子がそのことを怖がってたりショックを受けてたら表情に出る。だけどそれがなかった。だから大丈夫だって感じたんだ。


実際、一緒にアパートに帰って、


「今日、学校で結人くんと話したんだって?」


って尋ねた時にも変わらず穏やかな表情で、「うん…」と小さく頷いただけだったし。


むしろ、結人くんが、沙奈子のことを自分と同じだと認めてくれたらしいのが嬉しいとさえ思えた。


アパートに帰ってきた時に、二階から「おかえりなさい!」って出迎えてくれた鷲崎さんの様子もいつも通りで、だから結人くんの様子も特に変わったところはなかったんだろうなって感じた。


それにしても、千早ちゃんと大希くんは、やっぱり学校で沙奈子のことをしっかりと見守ってくれてるんだな。しかも、何があったかもちゃんと教えてくれる。それがまた嬉しかった。二人のおかげで安心してられるんだ。


そういうこともありつつも、学校での沙奈子の周りは基本的に穏やかだった。結人くんはこの子にとってはあくまで『ただのクラスメイト』でしかないらしい。結人くんが言ってた『友達ごっことかするつもりねーからな』って部分でも、そんなつもりは沙奈子の方にもそもそもないみたいだ。


うん。それでいいよ。仲良しこよしでベタベタするだけが人間関係じゃない。相手との適切な距離みたいのを掴むのもそれだと思うんだ。沙奈子はちゃんと上手くやれてるって気がする。



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