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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百八十六 結人編 「とても似てるんだ」

五月十八日。金曜日。昨夜は何だかとても蒸し暑かった。だから今年初めて、冷房を使うことになった。窓を開けっ放しにできれば扇風機だけで我慢もできそうだったけど、やっぱり不安もあったからね。


ニュースではもう続報もなく、世間的には既に忘れられた感もある例の『事件』だけど、学校や地域ではまだ緊張感はある感じだ。見回りや見守りも強化されてるって。今夜も鷲崎わしざきさんは夜間パトロールに参加するって言ってた。


「僕たちも一緒に行った方がいいかな」


そう尋ねる僕に彼女は、


「いえ、先輩はご家族でゆっくりしててください。喜緑きみどりさんも一緒に行ってくれるそうですから、大丈夫ですよ」


だって。


沙奈子の人形の服作りもあるし、僕達はお言葉に甘えさせてもらうことになった。


もっとも、鷲崎さんがそうやって夜間パトロールに出掛けられるのも、結人ゆうとくんが落ち着いてるからっていうのもあるんだろうな。以前は、容疑者がテレビに映ると何がおかしいのかゲラゲラ笑ったりってのがあったらしいのに、今回はそういうのも見られないんだって。


事件のニュースを見てゲラゲラ笑うというその様子に、僕はすごくうすら寒いものを感じてしまった。彼が抱えてる『問題』がとても根深くて深刻で危険なものだっていうのも察せられてしまった気がする。


だからこそ放っておけないんだ。彼をそのままにしておいて何か事件になれば、彼も、鷲崎さんもどうしようもないくらいに不幸になる。僕はそういうのは嫌なんだ。以前、イチコさんにしつこく絡んできた館雀かんざくさんや、波多野さんのご家族や、田上たのうえさんのご家族みたいに、相手から関わろうとされると逃げるような人達には手が届かなくても、結人くんは逃げようとはしてない。無視はしてるけど、拒絶しようという様子は見せてるけど、僕たちの存在そのものについては実は意識してるっていうのも感じるんだ。


それはただの反発かもしれない。だけど反発するくらいなら少なくとも意識はしてるわけで、完全にスルーして逃げようとしてるのとは違うと思うんだ。


彼を掴まえて偉そうにお説教するつもりはない。道徳を説くつもりもない。そんなことをして真に受けてもらえるほど僕たちは立派な人間じゃないのも分かってる。分かってるから、彼の前で実践してみせるんだ。僕たちがどうやって幸せを維持してるのかってことを。『幸せにしてる姿』じゃなくて、『幸せでいるためにしている努力』を見てもらうんだ。


彼は、勉強は苦手らしいけど、実は頭の切れる利発な子だっていうのも、みんな分かってる。それは僕たちの共通認識だ。僕たちの誰の目にもそう見える。


結人くんは、本質の部分で沙奈子にとても似てるんだ。



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