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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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六百八十四 結人編 「自分の憂さ晴らしの」

五月十六日。水曜日。今日も天気はいいようだ。と思ってたら昼過ぎくらいから曇ってきた。雨は降らなかったけど。


被害そのものはそれほどじゃなかったからか、今日はもう、朝のニュースでは取り上げられてなかった。それがいいことなのかどうなのかは、正直、よく分からない。


玲那の事件の時はニュース自体を見るのが辛くて、ずっとテレビを点けることさえできなかった。それがようやく点けられるようになってきたのに、相変わらず世間では悲しい事件が続いてる。


それ自体は、昔は事件が多くて伝えられなかったものが伝えられるようにもなったっていうことかもしれない。だって、凶悪事件の件数そのものは減ってきてるらしいから。だけど、今までは他の事件の陰に隠れて伝えられてこなかったものも伝えられるようになったから、相変わらず事件が多いっていう印象にもなるんだろうな。


今回の事件だって、ひょっとしたらこうやってテレビのニュースにまでは取り上げられなかったものかもしれない。精々、新聞の三面記事で小さく取り扱われるだけだったのかも。


世界的に見ても、今は、人間の歴史の中で最も凶悪犯罪が減ってきてる時期らしい。特に先進諸国で見れば、中世から近世、そして現代に至るまでものすごい勢いで減ってるんだって。たとえ実感がないとしても、実際にはそうらしいね。


だけど、それと同時に、人間はグラフの中の数字じゃないっていうのも事実だと思う。今回の事件で被害に遭った女の子にとっては、本当に大変なことなんだ。沙奈子が、玲那が、千早ちゃんが、波多野さんが、結人ゆうとくんが経験したことは、本人にとっては一生残る傷になってるんだ。全体の数で見れば減ってるからといってそれだけで手放しでは喜べない。もっともっと、事件そのものを減らしていく努力はこれからも必要なんだろうな。


だからと言って、波多野さんや結人くんがしてしまったことは、下手をするとそれ自体が『凶悪事件』になってしまう可能性もあったと思う。もしそれで容疑者が死んでしまってたりしたら、きっと今度は波多野さんが攻撃されてたんだ。


『他人の命を蔑ろにする凶悪な未成年』として。


多少は事情も考慮されたかもしれなくても、それがあまり当てにならないことは、玲那の事件の時にとことん思い知った。他人を罵って自分の憂さ晴らしに利用したい人間にとっては、『加害者の事情』なんてまるで関係ないんだ。


もちろん、だからってやったことを正当化するつもりはない。玲那も自分の罪を受け入れた。


でも、『自分の憂さ晴らしの標的にする』ことも、正当化しちゃいけないと思うんだ。



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